ベルリン電撃会談の風雲急…米の対北新戦略を占う

突如ベルリンに米朝高官が現れ、直接交渉を行った。6ヵ国協議の早期再開は確定的だ。焦点の金融制裁はどうなるのか…そして米国は対北戦略の新たな方針を打ち出すのか。
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独ベルリンのテーゲル国際空港に現れた米国クリストファー・ヒル国務次官補の姿をFNNのカメラがキャッチした。現地時間の15日だった。

「北朝鮮高官と会う予定は?」
▽画像:FNN『スーパーニュース』
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質問を受けたヒル次官補は「講演の為に来ただけ」と答えたが、翌16日には重要な会談が彼を待っていたのだ。

電撃的に行われた米朝ベルリン会談。

ヒルの訪独を察知していたFNNは、北朝鮮の担当者が在ベルリンの米国大使館に滑り込む瞬間もカメラに収めていた。独走スクープだ。
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黒いベンツには、北朝鮮側のカウンターパートナーである金桂冠が乗車していた。

現地時間の午前10時過ぎから始まった米朝会談は、昼の休憩を挟んで午後も続けられた。米朝が接触していた時間は6時間余り。
▽中央奥が金桂冠:FNN『ニュースJAPAN』
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ヒルと金桂冠は6ヵ国協議の2国の担当官である。話し合われた内容は次回の協議日程が中心と見られるが、ある程度細部まで踏み込んだものだったに違いない。

ベルリンでの接触が明らかになったのを受け、米国務省ケーシー副報道官は16日のプレス会見で、こう答えている。
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「きょうの会談は、良い意見交換が出来たし、前向きな雰囲気だった」

早期の6ヵ国協議再開は決定的だ。ヒル次官補からの報告を受け取った米国務省サイドも満足感を隠さなかった。

【突然開かれたベルリン・チャンネル】

一夜明けて…

「プライベートな会合で内容は明らかにできないが、何らかの取り決めをする為ではない」

17日午前、ベルリン市内での講演後、ヒルはインタビューにこう答えた。午後からは今度は北朝鮮大使館に場所を移して2日目の会談が行われ、更に18日午前にも3回目の会談が行われるという。

ウラン濃縮の発覚後、米朝2国間会談は中共を介して北京で行われてきた。今回の接触は極めて異例だ。

聯合通信は韓国政府筋の話として、先の6ヵ国協議後に北朝鮮が外交ルートを通じてベルリンを指定してきたという。

それを受けて米国が、ベルリン・チャンネルを開いたのだ。北朝鮮がベルリンを指定した背景には、中共の影響力を嫌ったとの分析も出ている。

90年代にもベルリンで米朝協議が行われたことはあった。ドイツ政府が東独崩壊後も外交公館の継続使用を認めたことでベルリンには北朝鮮大使館がそのまま残っているのだ。両国にとって都合が良い。

テポドン1号発射から1年余り後、2号試射の恐れが急速に高まった。緊迫する中で米朝交渉が進められたのがベルリンだった。その結果、北朝鮮がICBM発射を凍結する代わりに、米国は大幅な経済制裁の緩和を打ち出す。

99年9月12日に成立した米朝ベルリン合意である。

ちなみにその合意の2日後に対北緩和路線の礎となったペリー・リポートが米議会に提出され、米朝関係は一気に修復されることになる。
▽画像:FNN『ニュースJAPAN』
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金正日にとってベルリンでの交渉には、おいしい思い出があるようだ。しかし、今回も同じように行くという保障はどこにもない。

一方で、今回の米朝ベルリン電撃会談には不可解な部分が多い。

【金融交渉との優先順序が逆だ…】

昨年12月の6ヵ国協議のあとヒル次官補は苛立っていた。平行して米朝の金融作業部会が行われたものの、金桂冠が発言を持っていなかった為に協議が全く進まなかったからだ。

金融交渉の進捗状況がハッキリしない限り、6ヵ国協議は一歩も前進しなかった…あくまでも優先順位は金融交渉が先だったのだ。

だが、今回、ヒル次官補は金融交渉を前にして、早くも6ヵ国協議の開催時期にまで言及している。

「今後、中国と協議しなければならないが、1月末までには実現したい」
▽ベルリン講演でのヒル(ロイター)
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17日のベルリン講演で飛び出した言葉だ。不測の事態が起きない限り、1月末か2月初めには協議が再開されるだろう。

それが変なのだ。

米朝の金融交渉は1月22日頃に行われることがほぼ確定している。しかし、その席で交渉が決裂する可能性もある。

なぜ、ヒルは現時点で明言できるのか…

米朝の落としどころは既に決まっているのではないだろうか?ヒルの楽観的な予測から、金融交渉で神経戦が行われるとは到底思えない。

ベルリン会談が明らかになった16日、ロイター通信は、示唆に富んだ内容の記事を配信した。

【金融制裁をめぐる難解なパズル】

複数の米当局者の話として、ブッシュ政権は金融制裁で凍結したマカオのBDA=バンコ・デルタ・アジアの北朝鮮口座の一部を解除できるかどうか、検討を始めたという。

これまでに一部解除の見方は出ていたが、記事が出されたタイミングに注目したい。金正日に対する何らかのメッセージだ。

当局者の1人は口座を精査して「合法」「非合法」に選別可能だと述べているという。つまり合法と判断した資金の移動を認めるわけだ。

これまで、ブッシュ政権は資金の違法・合法を区別出来ないとしていた。当たり前である。

一般に対北金融制裁と呼ばれる措置は、愛国者法第311条に則った米財務省の警告だが、ひとつひとつの口座を封じているのではない。その仕組みは複雑だが、米国内で管理されるBDAの外為口座全体に網を掛けているのだ。

しかも、実際に311条で米国内の口座を封じたのではなく、強い警告の段階だ。

更に、BDAの北口座には30億円に満たない資金しかない。そのうちの“合法マネー”を移動させたとしても金正日に大きな旨味はない。

BDAではなく、スイスにある金正日秘密口座がキーになっていると言うのが筆者の以前からの見方だ。ジャーナリストの目にも耳にも触れられない金融の闇世界での取り引きである。

ただ、そうなると米国の利益が見えて来なくなる。そもそも金融制裁の狙いは、金正日の財布に鍵をかけることだ。秘密口座をオープンにしたら、まったく意味がなくなる…

米朝間には裏取引の匂いが濃厚だが、北朝鮮ウォッチャーの誰もが核心に迫れないでいる。まるで難解なパズルを前にした子供のようだ。

【米国はマルチ戦略で可能性を探る】

ブッシュ政権の対北政策は、多面的・多角的だと指摘されている。

現在、予想以上の効果を発揮しているのは金融制裁(=法執行)だが、米国はあらゆるオプションを排除せずに、幅広く布石を打ち続けていると見る。

金融制裁の発案者デービッド・アッシャーによれば、クリントン政権の失敗は、軍事オプションしか持っていなかったことだと言う。

クリントンは寧辺核施設の空爆止むなしと覚悟していたが、韓国の予想被害者数の膨大さを知って青ざめ、矛を収めたという。空爆という手段を引っ込めた瞬間に、打つ手がなくなったのだ。

米国はそれを苦い経験としてる。同時に米国一国で独走したことも反省しているだろう。

今回の戦略には、関係国を巻き込み、良い意味で利用することも含まれていると見る。6ヵ国協議の参加国5ヵ国を上手く使うはずだ。中ロといった隣接する大国を引き込めば、様々なオプションを保つことが出来る。

関係国の最近の態度から、少し大胆に予測してみよう。

セブ島の一件以来、「拉致」というキーワードを巡っての中共の恥知らずな変節ぶりが気になっている…
▽14日の日中首脳会談atセブ島(AFP)
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中共は「金正日の排除も仕方ない」と決意したのではないか?それは暴力的な手段による排除ではなく、真綿でクビを締めるように苦しめるものだ。その背景にはもちろん米国が描くガイドラインがある。

最近、日米問わず複数の識者の口から「体制転換」または「体制変革」という言葉が出ている。

体制転覆=レジーム・チェンジではなく
体制変革=レジーム・トランスフォーメーション

その目標は、体制崩壊=暴発を導くのではなく、内側から金正日一派の排除を促すものらしい。つまりはクビのすげ替えだ。

【金正日排除で北朝鮮=ラオス化計画】

実行力のある策がそう簡単に見つかるとは思えないが、戦火が周辺に飛び散るような大混乱は避けたいと、中共もロシアも願っている。

金正日の排除に抵抗している関係国首脳は、今や盧武鉉ひとりではないだろうか。ロシアにも金正日を是が非でも守り抜く理由はない。中共も金正男擁立策などクビのすげ替えを企んできた気配が濃厚だ。

日本にとっても拉致の計画立案者である金正日が無効化されれば、被害者の無事帰国に結びつく可能性が少なからずある。
▽17日公開された金正日の写真(AFP)
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拉致犯罪の全てを金正日と保衛部に被らせ、国家犯罪ではなく、組織犯罪にさせるのだ。やや無理があるが、不可能ではない。

そして北朝鮮の統治システムはある程度残すが、牙は全部抜き去る…そこでは共産国か自由主義国か、という二者択一を求めない。

毒の少ない社会主義国として延命させるのだ。言い換えれば北朝鮮=ラオス化計画だ。人口規模から見ても北朝鮮は、素朴な田舎の社会国だ。

少々、楽観的過ぎるか…

北朝鮮をめぐる現実はもっと残酷で、魑魅魍魎が蠢くものだろう。

それでも米国がひとつの手段で北朝鮮と対決しているのではなく、マルチ対応で臨んでいることは確かだ。

金融制裁とは別の次元で、金正日政権との駆け引きが続いている可能性も棄てきれない。

1月23日にはブッシュの一般教書演説が行われる。

前後して行われる米朝金融交渉に絡んで、様々な情報が米メディアから発信されるだろう。その中には重要な指針となるものも必ず含まれているはずだ。

        〆
最後まで読んで頂き有り難うございます♪
クリック1つが敵に浴びせる銃弾1発となります

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【side story】
米国の愛国者法第311条と金融制裁の複雑な仕組みについては、改めてテーマにする予定です。もの凄くややこしい…
今回は最も楽観的な予測を述べましたが、次の機会には恐怖の軍事オプションについて「悪のシナリオ」を練ります。

この記事へのコメント

マルコおいちゃん
2007年01月18日 06:06
ボルトン前連合国大使の、実力行使の可能性をほのめかす東京での発言は、軍事オプションの準備が整いつつあることの顕れかも知れません。あるいは軍事を背景に外交を行う、テオリー通りのブラフでしょうか?

もし、次回の六者会談があれば米国の最後通牒の手渡しになるかもしれません。
しかしそれでは、日本にとっては、拉致事件の解決にならないし、戦争(補助)準備もありません。しかし、もし今月中に、安倍総理の決断により集団自衛権行使の確認の政府決定が行われるならば、軍事オプションの可能性が高い、とのシグナルになると思います。そして決行は二月、おそらくシナ暦の旧正月(18日)前後。ちょうどあと一月。

標的は、キム・ジョンイルただ一人。

拉致被害者救出のオペレーションの訓練とシュミレーションも秘密裏に行われていることを願うばかりです。
大介
2007年01月18日 12:24
http://www.nikaidou.com/column01.html
反日団体名募集のお知らせ
【1/18(木)3:30】
 中国の「反日団体」・朝鮮の「反日団体」に関しての団体名のまとめをしたいのですが、皆様からも幅広く情報を求めたいと思っております。上記、中国共産党から朝鮮総連・はたまたレインボーブリッジまで、これぞ!と思う団体名を御存知の方は、ぜひinfo@nikaidou.comにメールしていただければと思います。公文書になる「国益を守るための資料」の作成に使わせていただきます。よろしくお願いいたします。
駱駝
2007年01月18日 14:18
金融制裁がかなりの効果を発揮していることは
確かでしょうが それにしてもシブトイなあー。 
シナ中共もベクトルを徐々に変えたいるのか。
なにしろ北京五輪と後に控える上海万博がある。 
日本でも東京五輪、大阪万博のあとは経済成長
がガクッと落ちたから。

シナだってどう転ぶかわからないが、「何か」を危惧していると。

韓国もシナの糞かな。喰らい付いていくしか致し方ないと。双方の経済も急ピッチで拡大している。飛んでるノム様もシナとは経済的には
仲良くしたいし。しかし歴史にかんしては
共に捏造が趣味だから、悶着はあるでしょう。

江蘇省の松下電池工場で1000人がストをやらかしたと。健康診断をめぐるトラブルがもと
らしい。日本ではありえない。
共産党系列の労組「工会」を設置義務化するとのことだが、給料の数%を組織に上納する仕組みだから、当然監視態勢も強化できる。中共の
たがが緩んできたのでこの(松下がある)市
から手始めにということか。他国はさておき、現地の日本の企業の今後がすこし心配だな。
2007年01月18日 17:21
>マルコおいちゃん
「連合国大使」の表現はイイですね。国連と言う呼称には善意も秘められているようで嫌っています。
軍事オプションについては大胆な陰謀論を展開したいと思います。何が会あっても米国は武力行使という選択肢を棄てない国だと考えています。
外交も旧正月を充分に折り込んでいるようですが、どう展開するか…

>大介さま
了解です。例の南京映画の件でもそうでしたが、重要なことだと思います。

>駱駝さま
五輪を控えた中共にとっては北部地域の混乱は大問題でしょうね。米国もそれを“人質”に、説得する可能性もあります。
支那の労組にも上納金…あまり問題視されたことのない労組の実態ですが、それだけに興味があります。日系企業を直撃するチャイナリスクでしょう。
ごんべえ
2007年01月18日 20:25
アメリカの足元はグラついているとも言えるが、マルチオプションを持つのがアメリカらしい対応でしょうね。マルチ対応をさらに広げるためにはイラクの軛を少しでも和らげるべく日本も協力する必要があります。
誰だったかが「金正日の亡命も近い」と言ってました。あり得ない話ではない…そのための資金づくりに向けた制裁緩和ということはあり得ないか?
いずれにしても日本は制裁と総連締め付けを強化する一方で軍事オプションへの備えをせねば。
神谷晃良
2007年01月18日 22:51
私は、麻生外務大臣の発言「武装難民の可能性が極めて高い」を高く評価する者です。朝日新聞は、どの様な意図で政府の「朝鮮半島有事対応計画(北朝鮮から、10万人から15万人の難民の可能性)」を報道したのかは、判らないですが、麻生外務大臣の「武装難民」の一言で、「難民受け入れ止む無し」の雰囲気が立ち上がるのを、未然に防いだ様に思います。理屈抜きで、これ以上朝鮮民族がこの国に増えるのは嫌です。私は、「在日特権」が許せない者の一人で、緩やかな朝鮮半島有事が起こり、在日朝鮮人の永住権や特権を剥奪できる事態が起きないかな、と願う者です。大体、何故在日の朝鮮民族だけが、他の外国人や日本国民より経済的に優遇されているのです?在日に与える生活保護さえなかったら、最近話題になった、少年達に川に落とされ殺された、老女のホームレスのなどを少なくする事も出来ませんか。「阪神淡路大震災時の、重火器発見」は、本当の事だったのですか?都市伝説だと思っていました。朝鮮民族と日本国民との、チキンレースが始まったみたいですね。
2007年01月19日 03:13
>ごんべえ様
専門家の一部は議会のバランスで、対北で武力行使を棄てたと断言していますが、最後まで選択肢を残すのが米国のやり方に思えます。
当然、噴き出すだろうと考えていた亡命説がまったく出て来ないのが逆に不気味ですね。我が国としては揺るがずに総連を締め上げれば良いでしょう。その点は進んでいますし。

>神谷晃良さま
本国の独裁システムが崩れれば、国内の在日犯罪組織も壊滅的な打撃を受けるでしょう。むしろ暴発は北本国より、国内の方が危ないかも知れません。警察力で対処できるかどうかは実に微妙です。

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