ヒル電撃訪朝の曲芸飛行…38度線を越えた覚悟
ヒル次官補が突如、平壌に降り立った。事前の情報漏れもなくDMZを軽々と越えた曲芸飛行。電撃訪朝までに米朝間で何があったのか…そして新たなステージでは何が起きるのか。
6月20日水曜日。神宮球場のスタンドに「そこに居てはならない人物」が座り、野球観戦を楽しんでいた。
米国務省のヒル次官補だ。
今月15日から東アジアを歴訪していたヒル次官補は、すべての日程を終えて、20日夜には米国に向かう「機上の人」となっているはずだった。
しかし「私的に会う人物がいる」「少し疲れた」などといった下手なウソをついて都内のホテルに延泊していたのだ。 なぜ、スケジュールを急変更し、神宮のスタンドにいたのか、その理由を知る者は少なかった…
▽20日谷内外務次官と会談するヒル次官補(AFP)
ヒル次官補は記者団に対し、21日の米国への出発便を教えていた。次官補クラスでも便名を自ら明かすことは異例だという。だが、その日、成田空港にヒル次官補が姿を見せることはなかった。
ヒル次官補を乗せた車は、そのまま六本木の米軍施設に滑り込む。六本木トンネル脇にある麻布米軍ヘリ基地だ。更に、米軍ヘリで横田基地に向かい、小型軍用機で韓国に向かった。
▽麻布基地を離陸するヘリ(FNN)
マスコミもヒル次官補の行く先を、直ぐさまキャッチできなかったようだ。同行していたのはAP通信の記者だけだった。
軍用機で韓国の烏山(オサン)空軍基地に到着したヒル次官補は、午前11時20分、平壌に向けて飛び立った。そして午後零時半ころ、平壌の順安(スンアン)国際空港にランディングする米軍機の姿が捕らえられた。
▽平壌順安空港に着陸したヒル搭乗機(FNN)
正に電撃訪朝である。
まさか小型軍用機で38線を越えようとは、誰しも想像していなかった事態だ。
【3日前に決まった1泊2日平壌ツアー】
「6カ国協議のプロセスを継続しなければならない。遅れた時間を取り戻したい。この訪問で討議する諸問題が6カ国協議の進展に寄与するよう望んでいる」
平壌・順安国際空港で、厚い出迎えをうけたヒル次官補は、そう語り、2・13合意履行への期待を滲ませた。雨の空港で傘を手に出迎えたのは、北朝鮮外交部の李根(リ・グン)米州局長だ。
▽ヒル次官補を迎える李根(EPA=時事)
ヒル次官補は2日間の日程で平壌に滞在。初日にカウンターパートナーの金桂冠と会談したのを始め、2日目には、姜錫柱(カン・ソクチュ)第一外務次官、朴義春(パク・ウィチュン)外相と会談する見込みだという。
姜錫柱は、実質的に対米外交を取り仕切る責任者で、金正日の側近だ。いわば金正日の影法師で、踏み込んだ話まですることが出来る。今後の米朝関係を決定付ける話し合いが、平壌で行なわれるのは確かだ。
▽平壌空港に降り立ったヒル次官補(AP)
いつ電撃訪朝が決まったのか?
ヒル次官補は平壌到着後の記者質問に、こう答えている。
「メッセージは18日に受け取った。航空機の手当てを早急にしなければならなかった」
電撃訪朝の3日前にあたる6月18日月曜日だ。またヒル次官補を追うTVカメラも、李根との会話を収録していた。
李根「お待ちしていました」
ヒル「月曜日にメッセージが来ました」
▽李根と会話するヒル次官補(JNN)
事態が急展開したのは18日、ヒルはどこにいて、誰からメッセージを受け取ったのか?
先週末から今週初めにかけて、北朝鮮情勢は激しく動いていた。
【訪朝の噂を否定し続けていた…】
米東部時間の6月14日、BDA送金問題が遂に蠢き始めた。ロシア・ルートでの送金計画が実行に移されたのだ。複数のクッションを挟む異例の送金方法である。
BDA(マカオ当局管轄下)→NY連邦準備銀行(FRB傘下)→ロシア中央銀行→極東商業銀行(ロシア民間)→朝鮮大聖銀行(金正日直轄)
▽バンコ・デルタ・アジア(AP)
北朝鮮が主張していたBDA問題は解決に向かい、表面的に北朝鮮が突っぱねる理由はこれでなくなった。送金作業のスタートとほぼ時を同じくしてヒル次官補はワシントンから極東に向かう。
現地時間6月15日、ヒル次官補は北京空港に姿を見せ、こう語っていた。
「BDAに凍結された資金のうち北朝鮮所有分は全額送金されたと聞いている。これで送金問題は解決したと考えている」
そこで記者は訪朝の可能性を問い質したが、ヒル次官補は完全否定。
「まだ北朝鮮を訪問する計画はない」
ヒル次官補の北京入りはトランジットで、その直後にモンゴルの首都ウランバートルへ向けて飛び立つ。アジア・ソサエティーが主催する国際会議に出席する為だ。
▽6月17日ウランバートルでの会見(ロイター)
モンゴル滞在中に、IAEA(国際原子力機関)が、北朝鮮から代表団の訪朝受け入れがあったことを発表。BDA問題解決のメドがつくと同時に、一気に動きが加速し始めた。
そして問題の6月18日。当初からこの日にヒル次官補と北朝鮮当局者との直接対話が噂されていたのだ。
【3ヵ国を駆け抜けた6月18日】
3泊4日の長いモンゴル滞在を終えたヒル次官補は、18日午前に北京到着。さっそく記者団から北朝鮮当局者との接触を尋ねられるが、一言で否定する。
「武次官との会合だけを行い、ソウルに向かう」
▽18日北京に立ち寄ったヒル次官補(AP)
時間的な余裕は実際になかった。ヒル次官補は6ヵ国協議のホスト=武大偉と会談した後、直ぐにソウル行きの便に乗り込み、その日のうちに韓国の千英宇(チョン・ヨンウ)と会談ししている。
6月18日、ヒル次官補は3ヵ国に滞在していた。どの時点で北朝鮮から平壌招請のメッセージを受け取ったのか…それとも間接的に米国務省から伝えられたのか?
この日のヒル次官補は、先月の哀愁漂う後ろ姿とは異なり、自信に満ち溢れていた。武大偉との会談直後から上機嫌だ。
▽18日北京で会見するヒル次官補(AP)
「中国側と良い話し合いができた。これまでの遅れを取り戻したい」
「核施設の停止や封印、監視などについて技術的な課題が残っており、一日や二日単位では終わらない。しかし、月単位となることもない」
また、米国務省も米東部時間18日、寧辺核関連施設の封鎖について報道官が「数週間で封鎖」との楽観的な見通しを述べ、ライス国務長官も北朝鮮の姿勢を高く評価した。
「良いステップだ」
“米朝の春”が遅れてやって来たのか…
その中で、翌19日に来日したヒル次官補と佐々江局長の会談が行われ、夜に記者会見が開かれた。会談では6ヵ国協議の開催時期をめぐって日米間では微妙なズレも生じていたようだ。
▽19日佐々江・ヒル会談(読売新聞)
裏ではかなり突っ込んだ話し合いが行なわれたと見るが、ちょうど佐々江・ヒル会談が開かれていた時、奇怪極まりないニュースが飛び込んできた。
【ミサイル発射情報は誤報だった?】
外交で神経戦が続く時や過渡期には、必ずディスインフォメーション(偽情報)が飛び交う。
6月上旬に大きく報じられた金正日の重病説、極秘手術説など、その真偽は別に、典型的なディスインフォメーションの色合いを帯びていた。どこからか滲み出て来る“揺さぶり”である。
▽6月に公表された金正日の写真
それが佐々江・ヒル会談の最中に起きた。
6月19日、NHKが7時の定時ニュースで「北朝鮮が短距離ミサイル発射」と速報。
北朝鮮東部海岸から日本海に向けて発射されたのは、シルクワームと見られる短距離ミサイル。推定発射時刻は19日の午後3時頃…
NHKは日本政府筋からの情報としてトップ項目で伝えたようだ。更に、各メディアも後追いし、ミサイル発射を報じた。18日にヒル訪朝が確定し、その翌日にミサイル発射。つまり朝鮮人民軍と北朝鮮外交部との決定的な離間を示すケースだ。
▽軍事パレードに登場したシルクワーム
ところが21日になって「誤報だった」とするニュースが新たに報じられる。
19日午後に北朝鮮が短距離ミサイルの発射準備をしていることがわかったが、20日朝、発射準備段階にとどまっていたことが米軍などを通じて確認されたという。(読売新聞21日9時)
国防、治安情報で“飛ばし記事”が報じられるケースは極めて少ない。報道機関は、他のジャンルと違って慎重にウラを取り、伝えるのが普通だ。パニックを引き起こす可能性のある誤報などあり得ない…
改めて19日のミサイル発射情報で各社のソースを調べると、興味深い事実が判明した。産経新聞、中日新聞の情報源は防衛省。読売新聞、朝日新聞は韓国政府筋。CNNは韓国の情報機関当局者。
▽平壌4・25軍事パレード
韓国軍が把握していたのか否かは不明だ。しかし、防衛省ソースの場合、元を辿れば在日米軍に行き着く。米軍がミサイル情報を警告し、2日後に否定した…
これまでにない奇妙な事例だ。必ず何らかの意図が存在し、何らかのサインを潜ませる。
不可解な情報提供に関わった米軍は、ヒル次官補の訪朝ルートでも重要な舞台装置として介在した。
【搭乗機はDMZを越えて北へ】
ヒル次官補は突然のように38度線を跨いで北朝鮮に入った。決して 軽率に越えてはならない一線だった…その行為が何を意味するか充分に承知していただろう。
▽ヒルを乗せた要人輸送機(FNN)
FNNの情報によれば、ヒル次官補を乗せて横田基地~烏山基地~平壌のルートで飛行したのは要人輸送機だという。気になるのは、在韓空軍基地からダイレクトに平壌を目指した航路だ。
DMZ上空を避け、黄海上から大きく回り込んだ可能性もあるが、小型の米軍機は警戒ラインを軽々と超えて北朝鮮の首都に降り立った。北朝鮮空軍のスクランブルはないにせよ、対空砲火を浴びる危険もある。
▽飛行ルート(東京新聞)
常に朝鮮人民軍は空からの侵入者に万全の警戒態勢を保っている。僅かな期間でよく周知徹底できたものだ。ヒルの“曲芸飛行”は、朝鮮人民軍の保証が得られなければ不可能な芸当だった。
これまで北朝鮮内では、対米外交の前面に立つ外交部と軍との間で軋轢が生じているとも囁かれていた。主導権をめぐる醜い争いだ。しかし、今回の曲芸飛行は、その噂を吹き飛ばすだけの効果があった。
▽李根とヒル次官補(AP)
もしかすると、ヒル次官補は敢えて民間機で北京~平壌のルートを使わず、米軍機で直接入る劇的な演出を図ったのかも知れない。同時に、曲芸飛行は北朝鮮軍部の支持を裏書きしている。
越えてはならない一線だった38度線をヒルは、いきなり跨いだのだ。それは北京の頭ごなしの訪朝でもあった。
【満を持してライスが登場する】
今回のヒル訪朝で、中共は最後まで埒外に置かれた。ヒル次官補の北京訪問は行き帰りともトランジット扱いに近かった。これまでとは対照的で北朝鮮問題に関する中共の指導力・役割は終わったようだ。
BDA問題で何の役割を果たせなかった中共の銀行に代わり、ロシアの銀行を経由機関に選んだことにもサインがあったのではないか…
▽訪朝したヒル次官補&キム朝鮮部長(中央日報)
さらに焦点は、次期6ヵ国協議よりも、6ヵ国外相会議の開催に移ってきている。ホスト役だった中共のお役御免だ。早くも8月のARF(アセアン地域フォーラム)が有力視され、関係国が動き始めている。
いよいよコンドリーツァ・ライスのお出ましだ。長官に忠実なヒルは、ライスに花を持たせるだろう。
▽6月19日ソウル到着時のヒル次官補(AP)
外相マルチ会合は、次官補クラスの会議とまったくステージが異なる。一点突破が図られる巨大なチェス盤だ。
そこでライスが無意味な“駒”を置くことはない。
ゲームの行方を決定付ける勝負の駒だ。
〆
最後まで読んで頂き有り難うございます♪
クリック1つが敵に浴びせる銃弾1発 となります
↓

***************
【告知】
6月24日、HR121=ホンダ慰安婦決議案の採択が確実視されています。残された時間は、そう多くありません。
拙ブログも微力ながら署名活動を支援しています。下記のページから訪問し、それぞれの思いを形に変えて下さることを願う次第です。

参考記事:
読売新聞6月22日『ヒル次官補が北朝鮮外務次官と会談、核無能力化も議題か』
イザ6月21日『電撃初訪朝は攻めか焦りか ヒル米次官補』
毎日新聞6月21日『6カ国協議:ヒル米次官補が北朝鮮を初訪問』
読売新聞6月21日『北「ミサイル発射」実際は準備段階、政府筋が確認』
6月20日水曜日。神宮球場のスタンドに「そこに居てはならない人物」が座り、野球観戦を楽しんでいた。
米国務省のヒル次官補だ。
今月15日から東アジアを歴訪していたヒル次官補は、すべての日程を終えて、20日夜には米国に向かう「機上の人」となっているはずだった。
しかし「私的に会う人物がいる」「少し疲れた」などといった下手なウソをついて都内のホテルに延泊していたのだ。 なぜ、スケジュールを急変更し、神宮のスタンドにいたのか、その理由を知る者は少なかった…
▽20日谷内外務次官と会談するヒル次官補(AFP)
ヒル次官補は記者団に対し、21日の米国への出発便を教えていた。次官補クラスでも便名を自ら明かすことは異例だという。だが、その日、成田空港にヒル次官補が姿を見せることはなかった。
ヒル次官補を乗せた車は、そのまま六本木の米軍施設に滑り込む。六本木トンネル脇にある麻布米軍ヘリ基地だ。更に、米軍ヘリで横田基地に向かい、小型軍用機で韓国に向かった。
▽麻布基地を離陸するヘリ(FNN)
マスコミもヒル次官補の行く先を、直ぐさまキャッチできなかったようだ。同行していたのはAP通信の記者だけだった。
軍用機で韓国の烏山(オサン)空軍基地に到着したヒル次官補は、午前11時20分、平壌に向けて飛び立った。そして午後零時半ころ、平壌の順安(スンアン)国際空港にランディングする米軍機の姿が捕らえられた。
▽平壌順安空港に着陸したヒル搭乗機(FNN)
正に電撃訪朝である。
まさか小型軍用機で38線を越えようとは、誰しも想像していなかった事態だ。
【3日前に決まった1泊2日平壌ツアー】
「6カ国協議のプロセスを継続しなければならない。遅れた時間を取り戻したい。この訪問で討議する諸問題が6カ国協議の進展に寄与するよう望んでいる」
平壌・順安国際空港で、厚い出迎えをうけたヒル次官補は、そう語り、2・13合意履行への期待を滲ませた。雨の空港で傘を手に出迎えたのは、北朝鮮外交部の李根(リ・グン)米州局長だ。
▽ヒル次官補を迎える李根(EPA=時事)
ヒル次官補は2日間の日程で平壌に滞在。初日にカウンターパートナーの金桂冠と会談したのを始め、2日目には、姜錫柱(カン・ソクチュ)第一外務次官、朴義春(パク・ウィチュン)外相と会談する見込みだという。
姜錫柱は、実質的に対米外交を取り仕切る責任者で、金正日の側近だ。いわば金正日の影法師で、踏み込んだ話まですることが出来る。今後の米朝関係を決定付ける話し合いが、平壌で行なわれるのは確かだ。
▽平壌空港に降り立ったヒル次官補(AP)
いつ電撃訪朝が決まったのか?
ヒル次官補は平壌到着後の記者質問に、こう答えている。
「メッセージは18日に受け取った。航空機の手当てを早急にしなければならなかった」
電撃訪朝の3日前にあたる6月18日月曜日だ。またヒル次官補を追うTVカメラも、李根との会話を収録していた。
李根「お待ちしていました」
ヒル「月曜日にメッセージが来ました」
▽李根と会話するヒル次官補(JNN)
事態が急展開したのは18日、ヒルはどこにいて、誰からメッセージを受け取ったのか?
先週末から今週初めにかけて、北朝鮮情勢は激しく動いていた。
【訪朝の噂を否定し続けていた…】
米東部時間の6月14日、BDA送金問題が遂に蠢き始めた。ロシア・ルートでの送金計画が実行に移されたのだ。複数のクッションを挟む異例の送金方法である。
BDA(マカオ当局管轄下)→NY連邦準備銀行(FRB傘下)→ロシア中央銀行→極東商業銀行(ロシア民間)→朝鮮大聖銀行(金正日直轄)
▽バンコ・デルタ・アジア(AP)
北朝鮮が主張していたBDA問題は解決に向かい、表面的に北朝鮮が突っぱねる理由はこれでなくなった。送金作業のスタートとほぼ時を同じくしてヒル次官補はワシントンから極東に向かう。
現地時間6月15日、ヒル次官補は北京空港に姿を見せ、こう語っていた。
「BDAに凍結された資金のうち北朝鮮所有分は全額送金されたと聞いている。これで送金問題は解決したと考えている」
そこで記者は訪朝の可能性を問い質したが、ヒル次官補は完全否定。
「まだ北朝鮮を訪問する計画はない」
ヒル次官補の北京入りはトランジットで、その直後にモンゴルの首都ウランバートルへ向けて飛び立つ。アジア・ソサエティーが主催する国際会議に出席する為だ。
▽6月17日ウランバートルでの会見(ロイター)
モンゴル滞在中に、IAEA(国際原子力機関)が、北朝鮮から代表団の訪朝受け入れがあったことを発表。BDA問題解決のメドがつくと同時に、一気に動きが加速し始めた。
そして問題の6月18日。当初からこの日にヒル次官補と北朝鮮当局者との直接対話が噂されていたのだ。
【3ヵ国を駆け抜けた6月18日】
3泊4日の長いモンゴル滞在を終えたヒル次官補は、18日午前に北京到着。さっそく記者団から北朝鮮当局者との接触を尋ねられるが、一言で否定する。
「武次官との会合だけを行い、ソウルに向かう」
▽18日北京に立ち寄ったヒル次官補(AP)
時間的な余裕は実際になかった。ヒル次官補は6ヵ国協議のホスト=武大偉と会談した後、直ぐにソウル行きの便に乗り込み、その日のうちに韓国の千英宇(チョン・ヨンウ)と会談ししている。
6月18日、ヒル次官補は3ヵ国に滞在していた。どの時点で北朝鮮から平壌招請のメッセージを受け取ったのか…それとも間接的に米国務省から伝えられたのか?
この日のヒル次官補は、先月の哀愁漂う後ろ姿とは異なり、自信に満ち溢れていた。武大偉との会談直後から上機嫌だ。
▽18日北京で会見するヒル次官補(AP)
「中国側と良い話し合いができた。これまでの遅れを取り戻したい」
「核施設の停止や封印、監視などについて技術的な課題が残っており、一日や二日単位では終わらない。しかし、月単位となることもない」
また、米国務省も米東部時間18日、寧辺核関連施設の封鎖について報道官が「数週間で封鎖」との楽観的な見通しを述べ、ライス国務長官も北朝鮮の姿勢を高く評価した。
「良いステップだ」
“米朝の春”が遅れてやって来たのか…
その中で、翌19日に来日したヒル次官補と佐々江局長の会談が行われ、夜に記者会見が開かれた。会談では6ヵ国協議の開催時期をめぐって日米間では微妙なズレも生じていたようだ。
▽19日佐々江・ヒル会談(読売新聞)
裏ではかなり突っ込んだ話し合いが行なわれたと見るが、ちょうど佐々江・ヒル会談が開かれていた時、奇怪極まりないニュースが飛び込んできた。
【ミサイル発射情報は誤報だった?】
外交で神経戦が続く時や過渡期には、必ずディスインフォメーション(偽情報)が飛び交う。
6月上旬に大きく報じられた金正日の重病説、極秘手術説など、その真偽は別に、典型的なディスインフォメーションの色合いを帯びていた。どこからか滲み出て来る“揺さぶり”である。
▽6月に公表された金正日の写真
それが佐々江・ヒル会談の最中に起きた。
6月19日、NHKが7時の定時ニュースで「北朝鮮が短距離ミサイル発射」と速報。
北朝鮮東部海岸から日本海に向けて発射されたのは、シルクワームと見られる短距離ミサイル。推定発射時刻は19日の午後3時頃…
NHKは日本政府筋からの情報としてトップ項目で伝えたようだ。更に、各メディアも後追いし、ミサイル発射を報じた。18日にヒル訪朝が確定し、その翌日にミサイル発射。つまり朝鮮人民軍と北朝鮮外交部との決定的な離間を示すケースだ。
▽軍事パレードに登場したシルクワーム
ところが21日になって「誤報だった」とするニュースが新たに報じられる。
19日午後に北朝鮮が短距離ミサイルの発射準備をしていることがわかったが、20日朝、発射準備段階にとどまっていたことが米軍などを通じて確認されたという。(読売新聞21日9時)
国防、治安情報で“飛ばし記事”が報じられるケースは極めて少ない。報道機関は、他のジャンルと違って慎重にウラを取り、伝えるのが普通だ。パニックを引き起こす可能性のある誤報などあり得ない…
改めて19日のミサイル発射情報で各社のソースを調べると、興味深い事実が判明した。産経新聞、中日新聞の情報源は防衛省。読売新聞、朝日新聞は韓国政府筋。CNNは韓国の情報機関当局者。
▽平壌4・25軍事パレード
韓国軍が把握していたのか否かは不明だ。しかし、防衛省ソースの場合、元を辿れば在日米軍に行き着く。米軍がミサイル情報を警告し、2日後に否定した…
これまでにない奇妙な事例だ。必ず何らかの意図が存在し、何らかのサインを潜ませる。
不可解な情報提供に関わった米軍は、ヒル次官補の訪朝ルートでも重要な舞台装置として介在した。
【搭乗機はDMZを越えて北へ】
ヒル次官補は突然のように38度線を跨いで北朝鮮に入った。決して 軽率に越えてはならない一線だった…その行為が何を意味するか充分に承知していただろう。
▽ヒルを乗せた要人輸送機(FNN)
FNNの情報によれば、ヒル次官補を乗せて横田基地~烏山基地~平壌のルートで飛行したのは要人輸送機だという。気になるのは、在韓空軍基地からダイレクトに平壌を目指した航路だ。
DMZ上空を避け、黄海上から大きく回り込んだ可能性もあるが、小型の米軍機は警戒ラインを軽々と超えて北朝鮮の首都に降り立った。北朝鮮空軍のスクランブルはないにせよ、対空砲火を浴びる危険もある。
▽飛行ルート(東京新聞)
常に朝鮮人民軍は空からの侵入者に万全の警戒態勢を保っている。僅かな期間でよく周知徹底できたものだ。ヒルの“曲芸飛行”は、朝鮮人民軍の保証が得られなければ不可能な芸当だった。
これまで北朝鮮内では、対米外交の前面に立つ外交部と軍との間で軋轢が生じているとも囁かれていた。主導権をめぐる醜い争いだ。しかし、今回の曲芸飛行は、その噂を吹き飛ばすだけの効果があった。
▽李根とヒル次官補(AP)
もしかすると、ヒル次官補は敢えて民間機で北京~平壌のルートを使わず、米軍機で直接入る劇的な演出を図ったのかも知れない。同時に、曲芸飛行は北朝鮮軍部の支持を裏書きしている。
越えてはならない一線だった38度線をヒルは、いきなり跨いだのだ。それは北京の頭ごなしの訪朝でもあった。
【満を持してライスが登場する】
今回のヒル訪朝で、中共は最後まで埒外に置かれた。ヒル次官補の北京訪問は行き帰りともトランジット扱いに近かった。これまでとは対照的で北朝鮮問題に関する中共の指導力・役割は終わったようだ。
BDA問題で何の役割を果たせなかった中共の銀行に代わり、ロシアの銀行を経由機関に選んだことにもサインがあったのではないか…
▽訪朝したヒル次官補&キム朝鮮部長(中央日報)
さらに焦点は、次期6ヵ国協議よりも、6ヵ国外相会議の開催に移ってきている。ホスト役だった中共のお役御免だ。早くも8月のARF(アセアン地域フォーラム)が有力視され、関係国が動き始めている。
いよいよコンドリーツァ・ライスのお出ましだ。長官に忠実なヒルは、ライスに花を持たせるだろう。
▽6月19日ソウル到着時のヒル次官補(AP)
外相マルチ会合は、次官補クラスの会議とまったくステージが異なる。一点突破が図られる巨大なチェス盤だ。
そこでライスが無意味な“駒”を置くことはない。
ゲームの行方を決定付ける勝負の駒だ。
〆
最後まで読んで頂き有り難うございます♪
クリック1つが敵に浴びせる銃弾1発 となります
↓

***************
【告知】
6月24日、HR121=ホンダ慰安婦決議案の採択が確実視されています。残された時間は、そう多くありません。
拙ブログも微力ながら署名活動を支援しています。下記のページから訪問し、それぞれの思いを形に変えて下さることを願う次第です。

参考記事:
読売新聞6月22日『ヒル次官補が北朝鮮外務次官と会談、核無能力化も議題か』
イザ6月21日『電撃初訪朝は攻めか焦りか ヒル米次官補』
毎日新聞6月21日『6カ国協議:ヒル米次官補が北朝鮮を初訪問』
読売新聞6月21日『北「ミサイル発射」実際は準備段階、政府筋が確認』
この記事へのコメント
いや、マジで宣伝活動おつかれさん。
在日朝鮮人は韓国、北朝鮮の祖国に帰れ。祖国で民族教育をやれ。日本には今後2度と来るな。
6月21日(木)のNHKクローズアップ現代は、「大城将保」側の「軍命令があった」とする情報だけを垂れ流した。
彼は、反基地・反戦運動をしている。政治結社、沖縄平和ネットワーク代表だ。
大江健三郎の訴訟でも大江を支援している。
沖縄集団自決について、「軍命令があった」とする立場をとる、このNHKの報道は、公正・中立とは、決して言えない。
「大城将保」の反日運動に加担するものだ。偏向反日報道を堂々とするNHKを放置していてはいけない。
スレ違い申し訳ありません。
これで北が最初から望んでいた米国との直接二カ国協議ができたわけですから、これまでの六者協議は解散すべきでしょう。米国務省がどこまで愚かな独走をするのか不明ですが、我が国はあくまで既定方針どおり、拉致問題解決なくして国交協議なし、もちろん援助なし、で突っ張るべきでしょう。とうぜん我が国は自国の核武装についての論議をたかめ、ライスを牽制すべきかと思います。
立場や危うくなると、必ず擦り寄ってくる朝鮮の態度には、日本人は益々嫌悪感を強くするだけだぞw ジェラシー・・・じゃなくてジェラード。
なんでも佐々木敏氏の説ではこの先中朝戦争が予定されているそうですので、帰国されたジェラードさんの祖国防衛戦でのご奮闘を祈っております。
ペンタゴンが絡んできた意味は重要です。
>sdiさま
いつものことですが電波弱過ぎですね。
>日本人さま
半島情勢によらず「日本の中の北朝鮮」を粛々と解体に追い込むべきです。犯罪は国内法で厳格に対処することが肝要でしょう。
>名無しの経営者さま
酷い内容だったようですね。『クローズアップ現代』は制作者の名前が出ない“匿名番組”。一方通行でやりたい放題の感じです。
>特亜消尽さま
ポスト金正日体制の目処がたたない部分に悲劇があります。正男の身柄は中共が確保しているようですが、どう処遇するのか…
>サンドイッチさま
意外にライスを批判する声は聞こえません。何を目指しているか専門家でもライスの意図を読み切れないのが実情のようですね。
6ヵ国協議の枠組みは完全に不要になりました。国務省が中途半端な位置に立つ前に核武装論で更に牽制すべきですね。
>梅昆布茶さま
この半年ブッシュも金正日を呼び捨てにしたり、敬称をつけたり忙しい…すっかり対話の相手になってしまっています。
>・さま
北朝鮮よりも中共の立場が微妙なところに追い込まれています。これがどんな不確定要素になるのか注目の段階です。
利権目当ての田中派による日中国交回復が、その後の日本国内を如何におかしくしたか?
中国に、6兆円以上援助しても、少しも日本の国益のためになっていない。
日本の資金援助は、中国の反日活動を、世界的規模で行う資金にされている。
当時、日本は、焦って、台湾と国交断絶すべきではなかった。
利権目当ての、媚中派による、日本のあらゆる分野における、中国属国化の日本潰しは、すさまじいものがある。
北朝鮮と国交正常化、在日による日本潰しで、今でも危ない日本は、完全に崩壊する。
日中国交回復の二の舞だけはして欲しくない。