金正恩延命8000㎞の旅路…後味悪い米朝“無得点試合”
ディール不成立で勝敗は決まらず…北朝鮮はハノイで得意のスコアレスドローに持ち込んだ。今後も実りなく続く対話の為の対話。金正恩は静かにトランプ大統領の任期末を待つ。
43代ブッシュ大統領が、北朝鮮を「悪の枢軸」と名指した年の秋、第2次朝鮮半島核クライシスが始まる。米朝ハノイ会談は、危機の発端となった交渉のテーブルを想起させた。
「我々には、それ以上に強力なものもある」
北朝鮮の姜錫柱(カン・ソクチュ)第1次官は、そう恫喝した。「強力なもの」が何を示すか今も解釈が分かれるが、米国は前日の交渉で高濃縮ウラン計画を追及。一夜明けての回答が、これだったのだ。
▽訪朝後に来日したケリー次官補H14年10月(file)
「長い会談ではなかったが、彼は計8回に渡ってウラン濃縮計画に言及し、北はこの計画を進めているとはっきり述べた」(『アメリカ・北朝鮮抗争史』209頁)
2002年10月、帰国した米国のケリー国務次官補(当時)は、米朝枠組み合意に反した北の高濃縮ウラン(HEU)製造を強く非難。金正日政権も対米強硬路線に突き進む。
▽ウラン恫喝は第1次小泉訪朝の翌月だった(ロイター)
今回のハノイ会談と似ているのは、’02年当時、初日の交渉でケリーと渡り合った金桂寛(キム・ゲグァン)の対応だ。金桂寛は米側の追及に対し、徹底してシラを切り通した。
ハノイ会談に置き換えると、金桂冠の役回りを担ったのは金英哲で、ケリーの役割を果たしたのがボルトン大統領補佐官である。そして、決裂の材料は同じ高濃縮ウラン問題だった。
▽拡大会合に臨むボルトン補佐官2月28日(ロイター)
芝居めいた笑顔の馴れ合いから一転、ボルトン参加で流れが急変した2日目の拡大会合。米側が突き付けた証拠に金正恩は右往左往し、金英哲がシラを切って全否定したと見られる。
大手メディアは会談不調の原因を色々と論じるが、なぜか核心を避ける。トランプ大統領は会談後の会見で、高濃縮ウラン問題を提起したと明かし、こう語っている。
「我々が知っていたことに彼らは驚いていた」
▽記者会見するトランプ大統領2月28日(AP)
続いてポンペオ国務長官は、寧辺以外にある大型核施設の存在について指摘。それらを非核化の申告リストに含めることを北側が拒んだ為に合意に至らなかったと明言している。
破談の要因は極めてシンプル。ケリー訪朝から17年、高濃縮ウラン問題が米朝交渉のネックとなったのだ。いい加減に見飽きた光景、オチの変わらない惰性のループ展開である。
【HEU計画をめぐる無限回廊】
「核兵器使用の是非を決定する権限を持つ会議が招集された」
2月26日、パキスタン軍広報官の発表に衝撃が走った。パキスタンが保有する核兵器は、カーン博士が深く関わった核のネットワークを通じ、北朝鮮の高濃縮ウラン製造に直結する。
印パの軍事的緊張は極限に迫ったが、モディ首相の支那訪問を控える中共が「静観の構え」を見せたことで事態が一変。パキスタンは、振り上げた拳をそっと降ろしたのだ。
▽解放されたインド空軍パイロット3月1日(ロイター)
一方で、パキスタンの核恫喝は、ハノイの交渉に大きな影響を与えたのではないか。北朝鮮の高濃縮ウラン問題を無視してトランプ大統領が合意文書に調印することは難しくなった。
米国の外交専門誌「ディプロマット」は昨年7月、平壌郊外に極秘のウラン濃縮施設があると報じた。平安南道・千里馬カンソン地区に建設された施設で、規模は寧辺の施設の2倍とされる。
▽疑惑が浮上したウラン濃縮施設(産経)
ポンペオ長官が記者会見で指摘した「大型核施設」とも符合する。カンソンの施設に関しては屋外にある点など疑問も呈されるが、分析に携わった米国の専門家は、こう警告する。
「知られていない別のウラン濃縮施設が地下に存在する可能性もある」
米国がどのような証拠を突き付けたのか、詳細は不明だ。それでも17年前にケリーが提示した「遠心分離機の領収書」よりも決定的なものであるに相違ない。
▽イランにあるウラン濃縮プラント(CNN)
「ウラン濃縮技術の開発が成功裏に進められ、実験段階に入った」
北朝鮮外交部は2009年6月、HEU計画を公式に認める声明を出した。6カ国協議の合意に基づき寧辺に滞在していたIAEAの監視要員を追放した直後だった。
▽寧辺から追放されたIAEA監視要員’09年4月(AP)
寧辺には「4号ビル」と呼ばれるウラン濃縮施設が存在する。北朝鮮側は米朝会談で、この施設を含めた放棄を申し出る一方、寧辺以外の新しい核関連施設については黙秘した。
寧辺に北朝鮮初の研究炉が誕生したのは1960年代だ。使い古して半世紀、殆どの施設は老朽化している。ブッシュ政権末期の「冷却塔爆破ショー」と同じく、何の意味を持たない。
更にIAEAの天野事務局長は3月4日、今年2月末に寧辺ウラン濃縮施設稼働の兆候があったと指摘した。トランプ大統領と金正恩が散歩している最中にも遠心分離機が高速回転していたのだ。
▽定番の演目になった「両首脳の散歩」2月28日(ロイター)
全く話にならない。金正恩の気色悪い高笑いが聴こえる。
【スコアレスドローの米朝交渉】
「走り去る専用車では、後部座席に座る正恩氏の『仏頂面』が確認された」(2月28日付時事通信)
▽会談場所を出る金正恩2月28日(時事)
首脳会談後、会場のホテル前に控えていた時事通信のカメラマンが、なかなか味わい深い写真の撮影に成功した。カッコ付きだが、政治報道では珍しい「仏頂面」という表現も的確だ。
米朝首脳会談の第二幕は物別れに終わった。先行きには不透明感が漂い、双方ともに得たものはなく、痛手を負ったという趣旨の論評が各メディアに踊る。だが、果たしてそうだろうか?
「米側の反応を見て国務委員長同志(金正恩)が今後の交渉に少し意欲を失ったのではないか」
▽緊急会見する北外交部コンビ3月1日(AP)
3月1日未明、唐突に開かれた異例の会見。北が演出する米朝融和ムードの踊り手=崔善姫(チェ・ソンヒ)は恨み節を口にした。これも舞台の続き、虚仮威しである。
「共通の利益を探る作業の継続に向け、我々の交渉チームを数週間以内に平壌へ派遣したい」
▽アイオワ州で演説するポンペオ長官3月4日(AP)
ポンペオ国務長官は3月4日、国内の会合に出席した際、そう語った。北側が交渉の打ち切りを示唆する中、3回目の首脳会談に道筋をつける意欲を示した。
金正恩の術中に嵌っている。これまで同様、北朝鮮は短期目標に「対話の為の対話」を掲げる。90年代の枠組み合意や10年前の米朝金融交渉、更に6カ国協議も同じ「引き延ばし作戦」だった。
▽夕食会では上機嫌だった2人2月27日(AFP)
この1年間、金正恩指導部は兵器級プルトニウムと高濃縮ウランの量産を続け、弾道ミサイルの組み立て工場も稼働させている。大量破壊兵器は更に整いつつあるのだ。
そして北朝鮮は米朝協議を「スコアレスドロー」に持ち込む。これが中長期目標で、かつてのジュネーブ交渉や金融制裁に絡んだベルリン協議が同じ道を辿った。
▽忘れ去られた越朝首脳会談3月1日(AFP)
延長戦ではなく、米朝双方が目に見える得点を挙げないまま、雪融けムードが終焉するのだ。北朝鮮は悲願の“体制保証”が得られず、米国は北の核廃棄を実現できずに、25年が過ぎた。
こうした過去の悪循環を批判して「正しい圧力路線」に舵を切ったのがトランプ政権だったが、漂流しているようにも見える。時間は、北朝鮮にのみ有利に作用する。
【金正恩不在11日の自信と慢心】
「世界の強い関心と注目を集める中、2回目の朝米首脳会談とベトナム訪問を成功裏に終えて帰国した」
白でも黒と言い張るのが党宣伝機関の役割だ。何が起きても成功と位置付けることは最初から決まっていた。派手なレッドカーペットとは対照的に、未明の平城駅に動員された朝鮮人が物哀しく見える。
▽平壌駅に到着した金正恩一行3月5日(KCNA)
党宣伝機関は往復の距離を「2万里」と表現した。実に8,000kmだ。2月23日の出発から帰国まで11日。半分以上が車中泊という異様な行程だった。
驚かされたのは陸路移動の長さではなく、平壌を留守にした日数だ。年初の北京詣でも4日間のゆとり日程だったが、11日間は3代目を継承してからの最長記録。金正恩は自信を深めたに違いない。
▽特種防弾車両に乗り込む金正恩2月23日(共同)
北朝鮮首領の弾丸ツアー外遊は、これまで鬼の居ぬ間のクーデターを恐る為とされてきた。しかし昨年のシンガポール旅行以来、金正恩の国外滞在期間は延び続けている。
首脳会談を間近に控えた2月中旬、米WSJ紙が北朝鮮での大規模な粛清を報じた。「腐敗一掃」を名目に、対南・対米外交に反対する勢力を追放、処刑したという。
▽「11日間の空白」を乗り切った金正恩3月5日(KCNA)
北国内で造反の動きがあったとする噂は今も絶えない。その一方、不安の芽を全て刈り取る恐怖政治が背景にあるにせよ、金正恩が地位を盤石なのものにしたことは、11日間の留守で裏付けられた。
金正恩によるトランプ大統領の値踏みは終わった。今後は徹底して舐めてかかり、のらりくらりと大統領の任期末を待つだろう。ウランバートルを舞台にした第3回米朝首脳会談が年内に開かれることはない。
▽会見場を後にするトランプ大統領2月28日(NYT)
トランプ大統領にしても、北朝鮮を揺さぶる手持ちのカードは少ない。最も効果的で適切な軍事的なプレッシャーは、北が核実験実施か弾道ミサイルを撃たない限り、発動できないのだ。
一般メディアは制裁継続による「北朝鮮の苦境」を伝えるが、中共が率先して制裁を破っている。資源供給という手土産が、早くも4回に及ぶ金正恩支那行脚の理由である。
▽北京詣でが止まらない金正恩1月8日(VOA)
対北制裁破りは、中共・ロシアに続き、南鮮も加わった。陸路で接する周辺3カ国の揃い踏みだ。これら制裁違反国に対する米国の動きが焦点となる。
プーチン、習近平に比べ、圧倒的に弱いのが文在寅だ。トランプ政権は南鮮の裏切り・抜け駆けを見逃すのか、裁くのか…半島情勢を占う上で、対南政策の変化が鍵を握っている。
〆
最後まで読んで頂き有り難うございます
クリック1つが敵に浴びせる銃弾1発となります
↓

関連エントリ:
H21年6月17日『封印解かれたウラン濃縮問題…安保理決議迷走の背後』
参照:
□ホワイトハウスHP2月28日『Remarks by President Trump in Press Conference. Hanoi, Vietnam』
参考記事:
□産経新聞3月5日『金正恩氏が帰国、制裁解除も中朝会談もないのに「成功」』
□時事通信2月28日『正恩氏一転、不機嫌に去る=トランプ氏「関係継続」』
□日経新聞3月1日『トランプ氏記者会見の要旨詳報 米朝首脳会談後』
□日経新聞3月5日『米国務長官、実務者の早期訪朝も「数週間以内」』
□ロイター3月1日『北朝鮮外相「制裁の全面解除は求めず」、米大統領の説明と食い違い』
□アゴラ3月4日『北の核問題とIAEAの「失った10年」』
□JB Press3月2日『北朝鮮は「秘密のウラン濃縮施設」を死守したかった』
□ニューズウィーク2月28日『ハノイ米朝会談、なぜ金正恩は何千キロもの「鉄道旅」を選んだ?』
□WSJ2月20日『正恩氏がエリート層粛清、外貨確保やタカ派排除狙いか』
43代ブッシュ大統領が、北朝鮮を「悪の枢軸」と名指した年の秋、第2次朝鮮半島核クライシスが始まる。米朝ハノイ会談は、危機の発端となった交渉のテーブルを想起させた。
「我々には、それ以上に強力なものもある」
北朝鮮の姜錫柱(カン・ソクチュ)第1次官は、そう恫喝した。「強力なもの」が何を示すか今も解釈が分かれるが、米国は前日の交渉で高濃縮ウラン計画を追及。一夜明けての回答が、これだったのだ。
▽訪朝後に来日したケリー次官補H14年10月(file)
「長い会談ではなかったが、彼は計8回に渡ってウラン濃縮計画に言及し、北はこの計画を進めているとはっきり述べた」(『アメリカ・北朝鮮抗争史』209頁)
2002年10月、帰国した米国のケリー国務次官補(当時)は、米朝枠組み合意に反した北の高濃縮ウラン(HEU)製造を強く非難。金正日政権も対米強硬路線に突き進む。
▽ウラン恫喝は第1次小泉訪朝の翌月だった(ロイター)
今回のハノイ会談と似ているのは、’02年当時、初日の交渉でケリーと渡り合った金桂寛(キム・ゲグァン)の対応だ。金桂寛は米側の追及に対し、徹底してシラを切り通した。
ハノイ会談に置き換えると、金桂冠の役回りを担ったのは金英哲で、ケリーの役割を果たしたのがボルトン大統領補佐官である。そして、決裂の材料は同じ高濃縮ウラン問題だった。
▽拡大会合に臨むボルトン補佐官2月28日(ロイター)
芝居めいた笑顔の馴れ合いから一転、ボルトン参加で流れが急変した2日目の拡大会合。米側が突き付けた証拠に金正恩は右往左往し、金英哲がシラを切って全否定したと見られる。
大手メディアは会談不調の原因を色々と論じるが、なぜか核心を避ける。トランプ大統領は会談後の会見で、高濃縮ウラン問題を提起したと明かし、こう語っている。
「我々が知っていたことに彼らは驚いていた」
▽記者会見するトランプ大統領2月28日(AP)
続いてポンペオ国務長官は、寧辺以外にある大型核施設の存在について指摘。それらを非核化の申告リストに含めることを北側が拒んだ為に合意に至らなかったと明言している。
破談の要因は極めてシンプル。ケリー訪朝から17年、高濃縮ウラン問題が米朝交渉のネックとなったのだ。いい加減に見飽きた光景、オチの変わらない惰性のループ展開である。
【HEU計画をめぐる無限回廊】
「核兵器使用の是非を決定する権限を持つ会議が招集された」
2月26日、パキスタン軍広報官の発表に衝撃が走った。パキスタンが保有する核兵器は、カーン博士が深く関わった核のネットワークを通じ、北朝鮮の高濃縮ウラン製造に直結する。
印パの軍事的緊張は極限に迫ったが、モディ首相の支那訪問を控える中共が「静観の構え」を見せたことで事態が一変。パキスタンは、振り上げた拳をそっと降ろしたのだ。
▽解放されたインド空軍パイロット3月1日(ロイター)
一方で、パキスタンの核恫喝は、ハノイの交渉に大きな影響を与えたのではないか。北朝鮮の高濃縮ウラン問題を無視してトランプ大統領が合意文書に調印することは難しくなった。
米国の外交専門誌「ディプロマット」は昨年7月、平壌郊外に極秘のウラン濃縮施設があると報じた。平安南道・千里馬カンソン地区に建設された施設で、規模は寧辺の施設の2倍とされる。
▽疑惑が浮上したウラン濃縮施設(産経)
ポンペオ長官が記者会見で指摘した「大型核施設」とも符合する。カンソンの施設に関しては屋外にある点など疑問も呈されるが、分析に携わった米国の専門家は、こう警告する。
「知られていない別のウラン濃縮施設が地下に存在する可能性もある」
米国がどのような証拠を突き付けたのか、詳細は不明だ。それでも17年前にケリーが提示した「遠心分離機の領収書」よりも決定的なものであるに相違ない。
▽イランにあるウラン濃縮プラント(CNN)
「ウラン濃縮技術の開発が成功裏に進められ、実験段階に入った」
北朝鮮外交部は2009年6月、HEU計画を公式に認める声明を出した。6カ国協議の合意に基づき寧辺に滞在していたIAEAの監視要員を追放した直後だった。
▽寧辺から追放されたIAEA監視要員’09年4月(AP)
寧辺には「4号ビル」と呼ばれるウラン濃縮施設が存在する。北朝鮮側は米朝会談で、この施設を含めた放棄を申し出る一方、寧辺以外の新しい核関連施設については黙秘した。
寧辺に北朝鮮初の研究炉が誕生したのは1960年代だ。使い古して半世紀、殆どの施設は老朽化している。ブッシュ政権末期の「冷却塔爆破ショー」と同じく、何の意味を持たない。
更にIAEAの天野事務局長は3月4日、今年2月末に寧辺ウラン濃縮施設稼働の兆候があったと指摘した。トランプ大統領と金正恩が散歩している最中にも遠心分離機が高速回転していたのだ。
▽定番の演目になった「両首脳の散歩」2月28日(ロイター)
全く話にならない。金正恩の気色悪い高笑いが聴こえる。
【スコアレスドローの米朝交渉】
「走り去る専用車では、後部座席に座る正恩氏の『仏頂面』が確認された」(2月28日付時事通信)
▽会談場所を出る金正恩2月28日(時事)
首脳会談後、会場のホテル前に控えていた時事通信のカメラマンが、なかなか味わい深い写真の撮影に成功した。カッコ付きだが、政治報道では珍しい「仏頂面」という表現も的確だ。
米朝首脳会談の第二幕は物別れに終わった。先行きには不透明感が漂い、双方ともに得たものはなく、痛手を負ったという趣旨の論評が各メディアに踊る。だが、果たしてそうだろうか?
「米側の反応を見て国務委員長同志(金正恩)が今後の交渉に少し意欲を失ったのではないか」
▽緊急会見する北外交部コンビ3月1日(AP)
3月1日未明、唐突に開かれた異例の会見。北が演出する米朝融和ムードの踊り手=崔善姫(チェ・ソンヒ)は恨み節を口にした。これも舞台の続き、虚仮威しである。
「共通の利益を探る作業の継続に向け、我々の交渉チームを数週間以内に平壌へ派遣したい」
▽アイオワ州で演説するポンペオ長官3月4日(AP)
ポンペオ国務長官は3月4日、国内の会合に出席した際、そう語った。北側が交渉の打ち切りを示唆する中、3回目の首脳会談に道筋をつける意欲を示した。
金正恩の術中に嵌っている。これまで同様、北朝鮮は短期目標に「対話の為の対話」を掲げる。90年代の枠組み合意や10年前の米朝金融交渉、更に6カ国協議も同じ「引き延ばし作戦」だった。
▽夕食会では上機嫌だった2人2月27日(AFP)
この1年間、金正恩指導部は兵器級プルトニウムと高濃縮ウランの量産を続け、弾道ミサイルの組み立て工場も稼働させている。大量破壊兵器は更に整いつつあるのだ。
そして北朝鮮は米朝協議を「スコアレスドロー」に持ち込む。これが中長期目標で、かつてのジュネーブ交渉や金融制裁に絡んだベルリン協議が同じ道を辿った。
▽忘れ去られた越朝首脳会談3月1日(AFP)
延長戦ではなく、米朝双方が目に見える得点を挙げないまま、雪融けムードが終焉するのだ。北朝鮮は悲願の“体制保証”が得られず、米国は北の核廃棄を実現できずに、25年が過ぎた。
こうした過去の悪循環を批判して「正しい圧力路線」に舵を切ったのがトランプ政権だったが、漂流しているようにも見える。時間は、北朝鮮にのみ有利に作用する。
【金正恩不在11日の自信と慢心】
「世界の強い関心と注目を集める中、2回目の朝米首脳会談とベトナム訪問を成功裏に終えて帰国した」
白でも黒と言い張るのが党宣伝機関の役割だ。何が起きても成功と位置付けることは最初から決まっていた。派手なレッドカーペットとは対照的に、未明の平城駅に動員された朝鮮人が物哀しく見える。
▽平壌駅に到着した金正恩一行3月5日(KCNA)
党宣伝機関は往復の距離を「2万里」と表現した。実に8,000kmだ。2月23日の出発から帰国まで11日。半分以上が車中泊という異様な行程だった。
驚かされたのは陸路移動の長さではなく、平壌を留守にした日数だ。年初の北京詣でも4日間のゆとり日程だったが、11日間は3代目を継承してからの最長記録。金正恩は自信を深めたに違いない。
▽特種防弾車両に乗り込む金正恩2月23日(共同)
北朝鮮首領の弾丸ツアー外遊は、これまで鬼の居ぬ間のクーデターを恐る為とされてきた。しかし昨年のシンガポール旅行以来、金正恩の国外滞在期間は延び続けている。
首脳会談を間近に控えた2月中旬、米WSJ紙が北朝鮮での大規模な粛清を報じた。「腐敗一掃」を名目に、対南・対米外交に反対する勢力を追放、処刑したという。
▽「11日間の空白」を乗り切った金正恩3月5日(KCNA)
北国内で造反の動きがあったとする噂は今も絶えない。その一方、不安の芽を全て刈り取る恐怖政治が背景にあるにせよ、金正恩が地位を盤石なのものにしたことは、11日間の留守で裏付けられた。
金正恩によるトランプ大統領の値踏みは終わった。今後は徹底して舐めてかかり、のらりくらりと大統領の任期末を待つだろう。ウランバートルを舞台にした第3回米朝首脳会談が年内に開かれることはない。
▽会見場を後にするトランプ大統領2月28日(NYT)
トランプ大統領にしても、北朝鮮を揺さぶる手持ちのカードは少ない。最も効果的で適切な軍事的なプレッシャーは、北が核実験実施か弾道ミサイルを撃たない限り、発動できないのだ。
一般メディアは制裁継続による「北朝鮮の苦境」を伝えるが、中共が率先して制裁を破っている。資源供給という手土産が、早くも4回に及ぶ金正恩支那行脚の理由である。
▽北京詣でが止まらない金正恩1月8日(VOA)
対北制裁破りは、中共・ロシアに続き、南鮮も加わった。陸路で接する周辺3カ国の揃い踏みだ。これら制裁違反国に対する米国の動きが焦点となる。
プーチン、習近平に比べ、圧倒的に弱いのが文在寅だ。トランプ政権は南鮮の裏切り・抜け駆けを見逃すのか、裁くのか…半島情勢を占う上で、対南政策の変化が鍵を握っている。
〆
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クリック1つが敵に浴びせる銃弾1発となります
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関連エントリ:
H21年6月17日『封印解かれたウラン濃縮問題…安保理決議迷走の背後』
参照:
□ホワイトハウスHP2月28日『Remarks by President Trump in Press Conference. Hanoi, Vietnam』
参考記事:
□産経新聞3月5日『金正恩氏が帰国、制裁解除も中朝会談もないのに「成功」』
□時事通信2月28日『正恩氏一転、不機嫌に去る=トランプ氏「関係継続」』
□日経新聞3月1日『トランプ氏記者会見の要旨詳報 米朝首脳会談後』
□日経新聞3月5日『米国務長官、実務者の早期訪朝も「数週間以内」』
□ロイター3月1日『北朝鮮外相「制裁の全面解除は求めず」、米大統領の説明と食い違い』
□アゴラ3月4日『北の核問題とIAEAの「失った10年」』
□JB Press3月2日『北朝鮮は「秘密のウラン濃縮施設」を死守したかった』
□ニューズウィーク2月28日『ハノイ米朝会談、なぜ金正恩は何千キロもの「鉄道旅」を選んだ?』
□WSJ2月20日『正恩氏がエリート層粛清、外貨確保やタカ派排除狙いか』
この記事へのコメント
削ぎ落とそうとしていた。
それに失敗した。
プーチンは直ちに北に小麦の無償援助を始めた。
北の産品が沿海州で販売できるように手配した。
プーチンはよく我慢している。
金正恩がプーチンと話するという。
これからが本番だ。
何が起こるのか分らない。
金正恩にカードはない。
中国もロシアも朝鮮族というカーぢも持っている。
彼らが協力すれば北の権力は入れ替わる。
そろそろ時期が来たかもしれない。