プーチンを嘲笑う天敵の魔女…“オデッサの屈辱”後日譚
ロシア系虐殺と非難されるオデッサ襲撃事件には重要な後日譚があった。そして当時の政変で暗躍した“魔女”の復活。プーチンは天敵の仕掛けた罠に見す見す飛び込む愚か者なのか。
「一方的な被害者かと言うと、そうでもない」
開戦直後、鳩山由紀夫の元ブレーン・寺島実郎は老舗の反日番組でウクライナ側の“加害”を示唆し、ロシアを擁護した。毎日新聞も専門家の口を借りて、同様のスタンスを示す。
「善と悪の役割をいずれかに当てはめて物事を見がちですが、戦争はそういうものではありません」
参照:毎日新聞3月5日『「プーチン悪玉論」で済ませていいのか』
NATOや欧米が善で、プーチンが悪だとするメディアの雰囲気に釘をさす。優等生的な、実にもっともらしい意見で、一部の評論家は大仰に語るが、当たり前の話である。
▽産院爆撃後に搬送される妊婦3月9日(AP)
国家同士の正規戦争が単純な善悪二元論で割り切れる筈がない。古くは大帝国による征服、植民地の強奪レース、部族が仕掛けた一方的な蹂躙などが頻繁に起きた。無辜の民を襲う悪の軍勢だ。
だが、17世紀のウェストファリア条約締結後、西洋で複雑な背景を持たない大規模戦争は無かった。残された資料から垣間見える実相は玉虫色で、完全無欠の正義の軍隊など存在しない。
▽仏ソンムの戦い塹壕の英軍兵1916年(file)
今回のウクライナ戦争でロシア悪玉論に疑問を投げ掛ける識者、特に老害左翼系は地雷を踏み抜いた。彼らこそ、大東亜戦争を善悪二元論で論じてきた連中である。
アジア・太平洋のほぼ全域が列強の植民地と化し、清朝の衰退が混乱に拍車を掛ける。支那事変、大東亜戦争の開戦に至る過程は、複雑な要素が絡み合っていたのだ。
▽我が軍のパレンバン降下作戦S17年(file)
それを単純な「日本悪玉論」で切って捨てたのが、老害陣営であり、反日メディアであり、戦後の教育界だった。一方、複雑な事情や背景を語る真っ当な見方は、歴史修正主義者と罵られた。
意見や見方では済まない。絶対的な“正義の側”は極東軍事裁判で“悪の側”を裁いて“戦犯”を仕立てた。戦後の主流をなす東京裁判史観が、歪んだ善悪二元論に基づいていることを忘れてはいけない。
▽正義が悪を断罪する設定の軍事法廷S23年(共同)
光と闇の争いは、古典的ファンタジーの物語でしかないのだ。
【後日譚があった“オデッサの屈辱”】
「作戦目標はウクライナ政権によって8年間に渡り、嫌がらせと大量虐殺に晒された人々の保護だ」
プーチンは2月24日の宣戦布告演説で、ウクライナ侵攻の理由のひとつに東部ドンバス地方での大量殺戮を掲げた。独ショルツ首相との開戦前の会談では、こうも語っていた。
「今、起きているのはウクライナ軍によるジェノサイドだ」
▽会談後の共同会見でも「虐殺」を強調2月15日(AP)
過去の一時期ではなく、現在進行形だと主張する。ミンスク合意後、紛争地帯にはOSCE(欧州安保協力機構)のスタッフが1,000人規模で派遣され、停戦監視任務に従事。定期的に報告書を作成している。
OSCEは我が国やロシアも加盟する国際組織だ。民間人の被害など詳細をリポートしているが、ジェノサイドに相当する特異な事例は認められない。
▽ドネツクから退去するOSCE職員2月13日(ロイター)
「ドンバスで双方が人権侵害を引き起こし、殺戮があったことは報告されているが、大量虐殺に関する信憑性のある証拠はない」
虐殺問題の権威とされる米ラトガーズ大のA・ヒントン教授は、アルジャジーラの取材に対し、そう答える。ロシアは昨年、欧州人権裁判所に提訴した際、発見された集団墓地が根拠になると主張した。
▽ドネツク集団墓地の発掘:日時不明(アルジャジーラ)
「集団墓地も民間人攻撃も漠然としている。明確な虐殺の証拠があるなら、ずっと前にロシアは提供していたはずだ」(A・ヒントン談)
ドンバスの“人民共和国”から遠く離れたオデッサで起きた虐殺事件を参考にすべきとの意見もある。’14年5月2日の労組会館焼き討ち映像は、事件が残忍で異様だったことを物語る。
この映像を紹介しているロシア国営メディアは、連邦制支持者(親ロ派)のデモ行進をユーロマイダン派が襲撃、焼き討ち事件に発展したと解説。発端の襲撃に関して、こう伝えていた。
「ある目撃者の話では、双方に銃火器があり…」
参照:ロシア・ビヨンド‘14年5月8日『オデッサの惨事をめぐる新たな事実』
善良な親ロ派市民を過激分子が一方的に襲ったという単純な構図ではないようだ。そして焼き討ちの2日後、親ロ派数千人が、拘束者の解放を求め、オデッサの警察本部を襲撃する事件が起きる。
▽警察本部に突撃する親ロ派集団’14年5月4日(ロイター)
“虐げられた民”が警察署を大群で包囲し、恐れも知れず襲い掛かったのだ。仏AFP通信は拘束者を「親ロ派戦闘員」と表現。またロイターは警察襲撃犯を躊躇なく「武装勢力」と断定する。
そして、この’14年5月4日の時点で、ウクライナ東部にある10数ヵ所の都市・町が親ロ派武装勢力に掌握されていた。ロシアによるクリミア併合宣言から約1ヵ月半が過ぎた頃である。
【蘇った魔女がキーフを炎で照らす】
お馴染みの馬渕睦夫元駐ウクライナ大使が、親ロ派と見做されるのは哀しい。馬淵元大使はヤヌコビッチ追放劇にオバマ政権の影があり、ウクライナ側にも複雑な事情があると訴える少数派の有識者だ。
戦争勃発で俄かに注目される準軍事組織・アゾフ大隊について、逸早く紹介していたのも馬淵元大使だった。大隊は公安調査庁の「要覧」にもネオナチ組織として解説が施されている。
▽マリウポリで訓練中のアゾフ大隊’15年(ロイター)
資料によると創設はオデッサ警察本部襲撃事件の翌日で、既に東部の複数の都市は親ロ派武装勢力の手に落ちていた。ロシア側の説明と時系列で食い違う点は重要に思える。
3月9日、首都キーウ突入を図ったロシア戦車隊がドローン攻撃を受けて撤退した。この空撮映像を公開したのが、アゾフ大隊だ。連隊と呼称されるケースも多いが、開戦前は1,000人規模と見積もられた。
馬淵元大使の解説で衝撃的だったのは、アゾフ大隊を資金面で組織した人物がイスラエル国籍も持つオリガルヒであることだ。ユダヤ系の大富豪がネオナチの手綱を引くという理解に苦しむ背景である。
プーチンでさえ詳しく説明しない裏事情を大手メディアが伝える筈もない。その中、結論部分を強調する馬淵元大使とは異なるプローチで、胡乱なバックグラウンドを説く実質的な援護射撃も見られる。
▽ヤヌコビッチ大統領とヌーランド’14年2月6日(AFP)
「ヤツェニュクは経済と政治の経験を有している人だ」
ヤヌコビッチ追放後の新政権人事に絡む会話が暴露された。ヤツェニュクは政変で暫定首相に選ばれた人物。推薦したのは、当時の米国務省次官補ヴィクトリア・ヌーランドだった。
会話は盗聴後に動画サイトに投稿されたもので、正確な日時は分からない。だが、ヌーランドを中心に米国務省の反ロシア・ラインが、ウクライナ政変に深く関与していたことは定説になっている。
▽政変に発展した首都キーウの騒乱’14年2月18日(時事)
そして、山口敬之氏が魔女と呼ぶヌーランドは、バイデン政権で国務次官として第一線に復帰。米ロ関係は時間が’14年当時に巻き戻るかのように急速に悪化した。この野心的なエリート女性もユダヤ系だ。
ちなみに、ブリンケン長官やNo.2のシャーマン副長官もユダヤ系で米国務省の序列3位までを独占。ゼレンスキー大統領も含めると、登場人物のユダヤ系比率が異常に高くなる。
▽NATO本部で会見するシャーマン副長官1月(ロイター)
戦場と化した場所が旧ハザール王国と重なることにも触れたいが、自重しよう。大手メディアが一切触れないのはタブー扱いではなく、上から「だから何なんだ」と言われてボツになる為だ。
同時に、隠された真相やドス黒い背景といった話は、開戦直後の戦局が揺れ動く中で相応しくない。現時点では、戦争終結後のヴィジョンが朧げにも見えていない状況である。
【天敵の罠に嵌るプーチンは盲目か】
プーチンの天敵との言えるヌーランド国務次官は昨年10月中旬、入国制限を一時的に解かれ、モスクワに飛んだ。3日間に渡る比較的に長い滞在だったが、協議内容は詳しく明かされていない。
「ビジネスライクな話し合いだった」
会談したリャブコフ外務次官は、素っ気なく話す。ロシア側の報道も淡白で、アフガンの処理や中央アジア関連のテーマが主で、同年6月に開かれた米ロ首脳会談の延長線上にだったと伝えるに留まった。
▽モスクワ訪問したヌーランド’21年10月13日(タス)
このヌーランド訪露後、米メディアがロシア軍のウクライナ国境集結を報じ、一気に事態が緊迫化する。タイミング的にヌーランドの動きと深くリンクしていたと見るべきだろう。
「現在の状況が以前よりも緊迫しているとは考えていない」
ゼレンスキー大統領は1月末の会見で、興味深い指摘をしていた。国境に張り付く10万人規模のロシア軍は、昨春の部隊大集結を凌ぐ程の脅威ではないと語ったのだ。
▽アゾフ海沿岸で訓練する露空挺部隊’21年4月(NYT)
ウクライナ戦争勃発後、メディアはクリミア併呑に遡って両国関係を解説する。ハザール王国はともかく、ホロドモールは熱く語って貰いたいが、前世紀の怨恨は遠因であっても侵攻の直接の原因ではない。
昨年4月、ウクライナ東部国境付近にロシア軍が集結。キーフの当局者は、その規模が11万人に達すると語った。今回の侵攻で最も重要なタイムライン上の出来事は、この1回目のロシア軍集結だ。
▽露軍集結は国境の約150㎞東方’21年4月(NYT)
昨春の集結は、米新政権発足に伴うプーチンの挑発と解釈した。ウクライナ利権に塗れたバイデン家の揺さぶりだ。だが、そこに天敵ヌーランドの返り咲きという要素があった事には想像が及ばなかった。
関連エントリ:2月18日『バイデン家のウクライナ危機…開戦前夜報道に抱く違和感』
ヌーランドは30歳代で米シンクタンク・CFR(外交問題評議会)のフェローに就任したエリートだ。反プーチン傾向が強いCFRを広く「ロシアの宿敵」と言い換えても良い。
宿敵勢の表舞台復帰に、プーチンが一矢報いるべく、レッドラインを突破した…シンプルな構図にも見えるが、落とし穴もある。プーチンは罠が割り巡らされていると知った上で、戦争を始めたのか?
▽プーチンと握手するヌーランド’15年(露政府公式)
巧妙な仕掛けが施されているなら理解できるが、覆いの無い剥き出しの落とし穴に自ら飛び込む感覚だ。プーチンが、脱出不可能の深い穴に身を投じるような愚か者とは思えない。
無責任な評論家の放言だけではなく、米議会からもプーチンの精神状態を問う声が上がる。それは誰しも侵攻の動機や背景を合理的に説明しきれないことの裏返しだ。陰謀論が幅を利かし易い土壌がある。
▽上院公聴会で答えるヌーランド3月8日(時事)
米政府の謀略といったコンスピラシー・セオリーの特徴は、手慣れた説明で“世界の真実”に到達した気分にさせてくれるものだ。しかし今回は逆で、辻褄が合わず、混乱を極める。
ハッキリしているのは、したり顔で語る黒幕の説明が、激戦地に立つ兵士にとって、砲撃に怯える人々にとって、何の救いにもならないことだ。
〆
最後まで読んで頂き有り難うございます
クリック1つが敵に浴びせる銃弾1発となります
↓

【告知】
拙ブログの北京虐殺五輪関連記事が大きく取り上げられました。宜しくお願いします。
関連動画:
ヌーランドについて更に突っ込んだ部分まで解説されています↓
参照:
□公安調査庁HP『国際テロリズム要覧2021〜極右過激主義者の脅威の高まりと国際的なつながり』
□Hrano times official『【日本語字幕】【閲覧注意】【年齢制限】ウクライナ・オデッサの悲劇』
参考記事:
□アルジャジーラ3月9日『’Smells of genocide’: How Putin justifies Russia’s war in Ukraine』
□AFP’14年5月5日『親露派が警察署襲撃、南部オデッサで騒乱続く ウクライナ』
□ロイター'14年5月5日『ウクライナ南部オデッサで親ロ派が警察襲撃、活動家を解放』
□Yahooニュース(AP)3月11日『アゾフ連隊がドローン攻撃 キーウ目前で露戦車隊を撃退』
□デイリースポーツ3月2日『「サンモニ」コメンテーター、ウクライナは「一方的な被害者でもない」』
□ニューズウィーク’21年10月12日『Russia Says 'Unacceptable' for U.S. to Maintain Military in Central Asia After Afghanistan』
□タス通信’21年10月13日『Russia-US contact such as talks with Nuland in Moscow are timely, necessary — Kremlin』
□NY Times’21年4月22日『Russia Orders Partial Pullback From Ukraine Border Region』
「一方的な被害者かと言うと、そうでもない」
開戦直後、鳩山由紀夫の元ブレーン・寺島実郎は老舗の反日番組でウクライナ側の“加害”を示唆し、ロシアを擁護した。毎日新聞も専門家の口を借りて、同様のスタンスを示す。
「善と悪の役割をいずれかに当てはめて物事を見がちですが、戦争はそういうものではありません」
参照:毎日新聞3月5日『「プーチン悪玉論」で済ませていいのか』
NATOや欧米が善で、プーチンが悪だとするメディアの雰囲気に釘をさす。優等生的な、実にもっともらしい意見で、一部の評論家は大仰に語るが、当たり前の話である。
▽産院爆撃後に搬送される妊婦3月9日(AP)
国家同士の正規戦争が単純な善悪二元論で割り切れる筈がない。古くは大帝国による征服、植民地の強奪レース、部族が仕掛けた一方的な蹂躙などが頻繁に起きた。無辜の民を襲う悪の軍勢だ。
だが、17世紀のウェストファリア条約締結後、西洋で複雑な背景を持たない大規模戦争は無かった。残された資料から垣間見える実相は玉虫色で、完全無欠の正義の軍隊など存在しない。
▽仏ソンムの戦い塹壕の英軍兵1916年(file)
今回のウクライナ戦争でロシア悪玉論に疑問を投げ掛ける識者、特に老害左翼系は地雷を踏み抜いた。彼らこそ、大東亜戦争を善悪二元論で論じてきた連中である。
アジア・太平洋のほぼ全域が列強の植民地と化し、清朝の衰退が混乱に拍車を掛ける。支那事変、大東亜戦争の開戦に至る過程は、複雑な要素が絡み合っていたのだ。
▽我が軍のパレンバン降下作戦S17年(file)
それを単純な「日本悪玉論」で切って捨てたのが、老害陣営であり、反日メディアであり、戦後の教育界だった。一方、複雑な事情や背景を語る真っ当な見方は、歴史修正主義者と罵られた。
意見や見方では済まない。絶対的な“正義の側”は極東軍事裁判で“悪の側”を裁いて“戦犯”を仕立てた。戦後の主流をなす東京裁判史観が、歪んだ善悪二元論に基づいていることを忘れてはいけない。
▽正義が悪を断罪する設定の軍事法廷S23年(共同)
光と闇の争いは、古典的ファンタジーの物語でしかないのだ。
【後日譚があった“オデッサの屈辱”】
「作戦目標はウクライナ政権によって8年間に渡り、嫌がらせと大量虐殺に晒された人々の保護だ」
プーチンは2月24日の宣戦布告演説で、ウクライナ侵攻の理由のひとつに東部ドンバス地方での大量殺戮を掲げた。独ショルツ首相との開戦前の会談では、こうも語っていた。
「今、起きているのはウクライナ軍によるジェノサイドだ」
▽会談後の共同会見でも「虐殺」を強調2月15日(AP)
過去の一時期ではなく、現在進行形だと主張する。ミンスク合意後、紛争地帯にはOSCE(欧州安保協力機構)のスタッフが1,000人規模で派遣され、停戦監視任務に従事。定期的に報告書を作成している。
OSCEは我が国やロシアも加盟する国際組織だ。民間人の被害など詳細をリポートしているが、ジェノサイドに相当する特異な事例は認められない。
▽ドネツクから退去するOSCE職員2月13日(ロイター)
「ドンバスで双方が人権侵害を引き起こし、殺戮があったことは報告されているが、大量虐殺に関する信憑性のある証拠はない」
虐殺問題の権威とされる米ラトガーズ大のA・ヒントン教授は、アルジャジーラの取材に対し、そう答える。ロシアは昨年、欧州人権裁判所に提訴した際、発見された集団墓地が根拠になると主張した。
▽ドネツク集団墓地の発掘:日時不明(アルジャジーラ)
「集団墓地も民間人攻撃も漠然としている。明確な虐殺の証拠があるなら、ずっと前にロシアは提供していたはずだ」(A・ヒントン談)
ドンバスの“人民共和国”から遠く離れたオデッサで起きた虐殺事件を参考にすべきとの意見もある。’14年5月2日の労組会館焼き討ち映像は、事件が残忍で異様だったことを物語る。
この映像を紹介しているロシア国営メディアは、連邦制支持者(親ロ派)のデモ行進をユーロマイダン派が襲撃、焼き討ち事件に発展したと解説。発端の襲撃に関して、こう伝えていた。
「ある目撃者の話では、双方に銃火器があり…」
参照:ロシア・ビヨンド‘14年5月8日『オデッサの惨事をめぐる新たな事実』
善良な親ロ派市民を過激分子が一方的に襲ったという単純な構図ではないようだ。そして焼き討ちの2日後、親ロ派数千人が、拘束者の解放を求め、オデッサの警察本部を襲撃する事件が起きる。
▽警察本部に突撃する親ロ派集団’14年5月4日(ロイター)
“虐げられた民”が警察署を大群で包囲し、恐れも知れず襲い掛かったのだ。仏AFP通信は拘束者を「親ロ派戦闘員」と表現。またロイターは警察襲撃犯を躊躇なく「武装勢力」と断定する。
そして、この’14年5月4日の時点で、ウクライナ東部にある10数ヵ所の都市・町が親ロ派武装勢力に掌握されていた。ロシアによるクリミア併合宣言から約1ヵ月半が過ぎた頃である。
【蘇った魔女がキーフを炎で照らす】
お馴染みの馬渕睦夫元駐ウクライナ大使が、親ロ派と見做されるのは哀しい。馬淵元大使はヤヌコビッチ追放劇にオバマ政権の影があり、ウクライナ側にも複雑な事情があると訴える少数派の有識者だ。
戦争勃発で俄かに注目される準軍事組織・アゾフ大隊について、逸早く紹介していたのも馬淵元大使だった。大隊は公安調査庁の「要覧」にもネオナチ組織として解説が施されている。
▽マリウポリで訓練中のアゾフ大隊’15年(ロイター)
資料によると創設はオデッサ警察本部襲撃事件の翌日で、既に東部の複数の都市は親ロ派武装勢力の手に落ちていた。ロシア側の説明と時系列で食い違う点は重要に思える。
3月9日、首都キーウ突入を図ったロシア戦車隊がドローン攻撃を受けて撤退した。この空撮映像を公開したのが、アゾフ大隊だ。連隊と呼称されるケースも多いが、開戦前は1,000人規模と見積もられた。
馬淵元大使の解説で衝撃的だったのは、アゾフ大隊を資金面で組織した人物がイスラエル国籍も持つオリガルヒであることだ。ユダヤ系の大富豪がネオナチの手綱を引くという理解に苦しむ背景である。
プーチンでさえ詳しく説明しない裏事情を大手メディアが伝える筈もない。その中、結論部分を強調する馬淵元大使とは異なるプローチで、胡乱なバックグラウンドを説く実質的な援護射撃も見られる。
▽ヤヌコビッチ大統領とヌーランド’14年2月6日(AFP)
「ヤツェニュクは経済と政治の経験を有している人だ」
ヤヌコビッチ追放後の新政権人事に絡む会話が暴露された。ヤツェニュクは政変で暫定首相に選ばれた人物。推薦したのは、当時の米国務省次官補ヴィクトリア・ヌーランドだった。
会話は盗聴後に動画サイトに投稿されたもので、正確な日時は分からない。だが、ヌーランドを中心に米国務省の反ロシア・ラインが、ウクライナ政変に深く関与していたことは定説になっている。
▽政変に発展した首都キーウの騒乱’14年2月18日(時事)
そして、山口敬之氏が魔女と呼ぶヌーランドは、バイデン政権で国務次官として第一線に復帰。米ロ関係は時間が’14年当時に巻き戻るかのように急速に悪化した。この野心的なエリート女性もユダヤ系だ。
ちなみに、ブリンケン長官やNo.2のシャーマン副長官もユダヤ系で米国務省の序列3位までを独占。ゼレンスキー大統領も含めると、登場人物のユダヤ系比率が異常に高くなる。
▽NATO本部で会見するシャーマン副長官1月(ロイター)
戦場と化した場所が旧ハザール王国と重なることにも触れたいが、自重しよう。大手メディアが一切触れないのはタブー扱いではなく、上から「だから何なんだ」と言われてボツになる為だ。
同時に、隠された真相やドス黒い背景といった話は、開戦直後の戦局が揺れ動く中で相応しくない。現時点では、戦争終結後のヴィジョンが朧げにも見えていない状況である。
【天敵の罠に嵌るプーチンは盲目か】
プーチンの天敵との言えるヌーランド国務次官は昨年10月中旬、入国制限を一時的に解かれ、モスクワに飛んだ。3日間に渡る比較的に長い滞在だったが、協議内容は詳しく明かされていない。
「ビジネスライクな話し合いだった」
会談したリャブコフ外務次官は、素っ気なく話す。ロシア側の報道も淡白で、アフガンの処理や中央アジア関連のテーマが主で、同年6月に開かれた米ロ首脳会談の延長線上にだったと伝えるに留まった。
▽モスクワ訪問したヌーランド’21年10月13日(タス)
このヌーランド訪露後、米メディアがロシア軍のウクライナ国境集結を報じ、一気に事態が緊迫化する。タイミング的にヌーランドの動きと深くリンクしていたと見るべきだろう。
「現在の状況が以前よりも緊迫しているとは考えていない」
ゼレンスキー大統領は1月末の会見で、興味深い指摘をしていた。国境に張り付く10万人規模のロシア軍は、昨春の部隊大集結を凌ぐ程の脅威ではないと語ったのだ。
▽アゾフ海沿岸で訓練する露空挺部隊’21年4月(NYT)
ウクライナ戦争勃発後、メディアはクリミア併呑に遡って両国関係を解説する。ハザール王国はともかく、ホロドモールは熱く語って貰いたいが、前世紀の怨恨は遠因であっても侵攻の直接の原因ではない。
昨年4月、ウクライナ東部国境付近にロシア軍が集結。キーフの当局者は、その規模が11万人に達すると語った。今回の侵攻で最も重要なタイムライン上の出来事は、この1回目のロシア軍集結だ。
▽露軍集結は国境の約150㎞東方’21年4月(NYT)
昨春の集結は、米新政権発足に伴うプーチンの挑発と解釈した。ウクライナ利権に塗れたバイデン家の揺さぶりだ。だが、そこに天敵ヌーランドの返り咲きという要素があった事には想像が及ばなかった。
関連エントリ:2月18日『バイデン家のウクライナ危機…開戦前夜報道に抱く違和感』
ヌーランドは30歳代で米シンクタンク・CFR(外交問題評議会)のフェローに就任したエリートだ。反プーチン傾向が強いCFRを広く「ロシアの宿敵」と言い換えても良い。
宿敵勢の表舞台復帰に、プーチンが一矢報いるべく、レッドラインを突破した…シンプルな構図にも見えるが、落とし穴もある。プーチンは罠が割り巡らされていると知った上で、戦争を始めたのか?
▽プーチンと握手するヌーランド’15年(露政府公式)
巧妙な仕掛けが施されているなら理解できるが、覆いの無い剥き出しの落とし穴に自ら飛び込む感覚だ。プーチンが、脱出不可能の深い穴に身を投じるような愚か者とは思えない。
無責任な評論家の放言だけではなく、米議会からもプーチンの精神状態を問う声が上がる。それは誰しも侵攻の動機や背景を合理的に説明しきれないことの裏返しだ。陰謀論が幅を利かし易い土壌がある。
▽上院公聴会で答えるヌーランド3月8日(時事)
米政府の謀略といったコンスピラシー・セオリーの特徴は、手慣れた説明で“世界の真実”に到達した気分にさせてくれるものだ。しかし今回は逆で、辻褄が合わず、混乱を極める。
ハッキリしているのは、したり顔で語る黒幕の説明が、激戦地に立つ兵士にとって、砲撃に怯える人々にとって、何の救いにもならないことだ。
〆
最後まで読んで頂き有り難うございます
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ヌーランドについて更に突っ込んだ部分まで解説されています↓
参照:
□公安調査庁HP『国際テロリズム要覧2021〜極右過激主義者の脅威の高まりと国際的なつながり』
□Hrano times official『【日本語字幕】【閲覧注意】【年齢制限】ウクライナ・オデッサの悲劇』
参考記事:
□アルジャジーラ3月9日『’Smells of genocide’: How Putin justifies Russia’s war in Ukraine』
□AFP’14年5月5日『親露派が警察署襲撃、南部オデッサで騒乱続く ウクライナ』
□ロイター'14年5月5日『ウクライナ南部オデッサで親ロ派が警察襲撃、活動家を解放』
□Yahooニュース(AP)3月11日『アゾフ連隊がドローン攻撃 キーウ目前で露戦車隊を撃退』
□デイリースポーツ3月2日『「サンモニ」コメンテーター、ウクライナは「一方的な被害者でもない」』
□ニューズウィーク’21年10月12日『Russia Says 'Unacceptable' for U.S. to Maintain Military in Central Asia After Afghanistan』
□タス通信’21年10月13日『Russia-US contact such as talks with Nuland in Moscow are timely, necessary — Kremlin』
□NY Times’21年4月22日『Russia Orders Partial Pullback From Ukraine Border Region』
この記事へのコメント
クリミアにはロシア系住人が多いので、独立できて、良かった、と住人は最初、思ったことでしょう。
しかしクリミアの肥沃な農地は、実はウクライナのドニエプル川から分水された用水によって潤されていることを、当のクリミア住人を含め、みんなが見落としていたのだと思います。
ウクライナ側としては、反乱者のクリミアに水を分ける義理はまったくなく、実際、2014年以降、国境の手前で水を完全に止めています。
このためクリミア半島を潤すはずの用水路には水が流れず、衛星写真で確認いただけますが、用水路の中には灌木も生え始めています。
私はロシア語は読めませんが、クリミアから発信される英語のSNSをいくつか見ても、「2014年=水がこなくなったことの代名詞」として、多くの人が怨嗟を発信しています。
以上の前提から、まだ多くの人が戦争はないと言っていた開戦前の時点でも、私は、開戦はある、と主張していました。
しかも第一目標はドニエプル川からの分水の確保。そして第二目標はこの用水の確保とアゾフ海の内海化のために、ドニエプル川南岸4州をロシアに併合することだ。
このように主張していました。
北部や東部の大軍は、スポットライトの当たった手品師の右手のように、ウクライナ軍の主力を引きつけるのが目的。
手品師の左手、南部からの侵攻こそが本命であり、北部の大軍はデゴイだ、とも書きました。
実際に戦争初日、いきなり、ドニエプル川の分水堰であるKakhovka水力発電所がロシアの手に落ち、用水は確保されました。
その後の動きによって明らかなように、アゾフ海もほぼロシアの内海と化しました。
一方、北部の大軍は、侵攻はしてみたものの、戦うつもりのないデゴイ。
こういう分析が、どこからも、外信も含めて出ていないのが、ちょっと不気味であります。
今後、停戦が成立して、ドニエプル川南岸4州がロシアに割譲されたなら、それこそプーチンの完勝というべきなのではないでしょうか。