プーチン2日間戦争の雌雄…“逐次投入”する開戦大義
虐殺説の次は核開発に生物兵器…見苦しい侵攻理由の“逐次投入”だ。電撃戦&親ロ政権樹立のシナリオはどこで狂ったのか。プーチンが挑んだ運命の「2日間戦争」を読み解く。
「ロシアは軍事活動により米国の生物軍事計画を突き止めた」
中共外交部のスポークスマンは3月8日、ロシアの宣伝工作に相乗りして吠えた。開戦以来、これほど活き活きとした北京の姿を見るのは久しぶりだ。
「ロシアが明らかにした証拠は、米国がコウモリ等の実験を通じて生物兵器の放出手段を獲得したことや特定の人種を狙ったバイオ研究を行なっていた可能性を示している」
▽会見で毒づく中共外交部報道官3月16日(人民網)
会見で連日のように米国の“機能獲得実験”に言及し、宣伝機関も大きく伝えた。裏読みせずとも自己紹介に聞こえる。武漢ウイルス生物兵器説を改めて検証する必要があるのではないか。
発端は3月6日のロシア国防省発表だ。それによるとウクライナは米国から資金提供を受け、ペストや炭疽菌の病原体を用いた生物兵器の開発を進めていたという。
「ウクライナには生物学研究施設があり、ロシア軍が掌握しようと試みるのではないかと深く懸念している」
▽上院公聴会で答弁するヌーランド3月8日(CNN)
ハザールの魔女ことヌーランド米国務次官が上院外交委公聴会で、そう答弁し、中共の悪ノリに拍車をかけた。米国が過去にウクライナのバイオ研究所に関与していたことは事実である。
北朝鮮の第2次核危機で米「ナン=ルーガー計画」の拡大適用が取り沙汰されたことを思い出す。同計画は90年代に旧ソ連諸国に残るNBC兵器の安全な処理を支援する為の大規模事業だった。
▽同計画に基づく米国防長官ウクライナ訪問’96年(Time)
ウクライナにはソ連解体後、生物兵器関連の遺棄物もあったのだ。ロシアも中共もナン=ルーガー計画の経緯・詳細を知りながら煽る。だが、それは思い付きの誹謗中傷ではなかった。
【侵攻理由の“逐次投入”で唐突なWMD疑惑】
「双方は米国とその同盟国による国内外の生物兵器活動が、BWCの遵守に関する国際社会に深刻な懸念と疑問を提起することを強調する」
2月4日発表の中露共同声明には異様な文言が盛り込まれていた。何の証拠も示さず、米国や同盟国のBWC(生物兵器禁止条約)違反を指摘。地域の安全保障環境に害を与える脅威と断定したのだ。
▽冬季虐殺五輪開幕日の中露首脳会談(BBC)
我が国では福島“放射能汚染水”の表現が問題視されたが、このBWC違反断定は全く報道されていない。海外の専門家は、中露首脳の重要な声明に明白な虚偽が記されたことは冷戦後に前例がないと驚く。
参照:Bulletin of the Atomic Scientists3月10日『Russian nuclear and biological disinformation undermines treaties on weapons of mass destruction』
中共によるウクライナ生物兵器キャンペーンは単なる悪ノリでもロシアの尻馬に乗る暴言でもない。武漢ウイルスの天然説に行き詰まり、米軍研究所起源説にシフトした中共にとっては最後の賭けである。
▽武漢ウイルス研究所の実験棟'20年(共同)
ウクライナ戦争に関して中共は曖昧な態度で、逃げ道も用意していると論評されるが、2月上旬の時点で旗幟は鮮明だったのだ。中共指導部はプーチンと運命を共にし、既に退路は絶たれている。
一方で、米生物兵器を非難した声明から1ヵ月が過ぎた頃、ロシアが唐突に持ち出したことは違和感が甚だしい。プーチンの宣戦布告でも長い歴史講義でも全く触れていなかった。
「ウクライナは今、核兵器を取得し、核保有国の地位を得ようとしている。見過ごす訳にはいかない」
▽国際女性デーに合わせたイベント3月5日(ロイター)
プーチンは女性を集めた会合で3月5日、そう語った。ロシア国営メディアは翌日から、ウクライナが「ダーディー・ボム」の製造を進め、半年以内に核兵器開発を成功させるなどと一斉に伝え始めた。
NBC兵器の揃い踏みである。核関連の追及は、チェルノブイリ原発制圧を正当化させる為の苦しい言い訳だが、開戦前にウクライナのWMD(大量破壊兵器)疑惑に言及することはなかった。
▽露軍が制圧したチェルノブイリ原発3月10日(AFP)
戦力の逐次投入は愚策の代名詞とされる。しかし、侵攻理由の逐次投入は過去に例がない。開戦の大義だった「虐殺の危機に晒されるロシア系100万人の救出」は、どこに消えたのか。
【粛清宣言で信憑性増す情報機関内紛説】
開戦理由の“逐次投入”はプーチンが激しく動揺し、焦り始めた証拠だ。ただし直接の原因は判然としない。ウクライナ侵攻部隊の停滞も、国際社会からのロシア孤立も3月上旬までには明らかだった。
「主要部隊と連絡が取れていない。ロシアは追い詰められている。勝利の選択肢はなく、敗北のみだ」
英タイムズ紙は3月7日、“プーチンの戦争”を真正面から批判する内部文書をすっぱ抜いた。ロシア最高位の情報機関=FSB(露連邦保安庁)分析官がリークしたとされる2000頁の報告書だ。
▽KGBを継承する露FSBの本部庁舎’15年(ロイター)
ロシア国内の反政府系サイト「Gullagnet」がFSB関係者から告発を受け、英紙に流したという。同サイトの正体は不明で、フェイクの疑いが排除できない性質のリポートだった。
ところが数日後、ロ独立系メディアがFSB幹部が自宅軟禁中であるとの情報を提供する。事実であれば、侵攻部隊の停滞、作戦のミスについてFSB幹部が責任を負わされた可能性が高い。
▽東部スムイ州で破壊された露軍戦車3月7日(共同)
「開戦に先立ち、ウクライナの政治状況分析を担当した第5局は、プーチンの機嫌を損ねないよう聞き心地の良い報告だけを上げた」
独立系メディアは、そう指摘する。第5局とは、旧ソ連諸国の親ロ派勢力を育成・支援する役割も持つ対外謀略部門の通称だ。この情報もソースが不明瞭で、額面通りには受け取れなかった。しかし…
「ロシア人は真の愛国者と裏切り者を常に見分けることが出来る。裏切り者は口に飛び込んできたハエのように吐き出すのみだ」
▽一部公開されたプーチン会合の模様3月16日(AP)
プーチンは3月16日、TV中継された政府会合で反逆者の粛清を宣言した。反戦市民の弾圧強化といった次元ではなく、国家機関幹部級の反逆者摘発だ。そこからFSBリーク情報の信憑性は一気に高まった。
「誰がウクライナの電撃戦を発案したのか判らない。最も重要なのは、誰も開戦を知られされていなかったことだ」
FSB分析官は内部告発リポートで、そう明かす。ウクライナ側の強い反ロシア感情をチェチェンに準え、親ロ派の人々さえ「公に反発している」と指摘する。
▽歓迎ムードなきドネツクの市街地3月12日(ロイター)
プーチンが開戦の大義で迷走したのは、事前の現地報告と現実の差を知った為ではないか。東部に侵攻したロシア軍は解放軍扱いされず、救世主とも見做されなかったのだ。
【プーチン2日間戦争の敗因】
「反ロシアのウクライナはもう存在しない。ウクライナは戻って来た」
ロシア側の勝利を祝う国営ノーボスチ通信の誤配信が見つかり、話題となった。予定稿が手違いで公開に至ったとみられ、直後に削除された。投稿日時はモスクワ時間の2月26日朝だ。
プーチンは開戦後2日間、48時間以内に作戦を完了する見通しだった可能性が高い。ロ軍側にキーフを陥す圧倒的な陸戦力がなく、また進軍部隊が首都近郊で停止した理由も説明できるだろう。
▽ウクライナ軍によるキーフの検問所3月15日(AFP)
軍事的に制圧する必要はなかった。プーチンは電撃戦で「衝撃と畏怖」をウクライナ国民に与え、ゼレンスキー大統領に代わる親ロ派の新たな政権を樹立する腹積もりだった。
ヤヌコビッチ追放劇に繋がった民衆蜂起・騒乱のような不安定な戦術は用いない。ゼレンスキー政権の中枢を粉砕し、親ロ派議員らによる暫定政権を発足させる目論みだったと推理する。
▽自撮り動画で生存伝える大統領と側近2月26日(ロイター)
侵攻開始の直後、現政権の幹部を捕縛して偽の降伏宣言を発布。それに呼応する形で、内通する議員や政府幹部が臨時政権を立て、ロシア側の意のまま停戦合意、東部の領土を割譲するシナリオだ。
鍵を握るのはウクライナ国会の約13%を占める親ロ派政党の議員ではない。浸透工作の本家・ロシアは、ゼレンスキーの側近など政権中枢にも内通者を仕立て、有利に進める手筈だったと考える。
▽独議会で演説するゼレンスキー大統領3月17日(AFP)
「ゼレンスキーと彼の代理人を最初の3日間で拘束し、彼らが屈辱的な降伏をしたなら、抵抗は最小限に抑えられた」
内部告発リポートのFSB分析官は、そう指摘する。大統領を捕縛するのは誰か。隠れ親ロ派の近衛部隊幹部が暗躍するケースも想定できるが、実際には動かず、空爆の最中も政権中枢は安泰だった。
3回目の停戦協議を前に、ウクライナ側の交渉担当者が殺害されていた事実が判明した。英サン紙は、交渉担当者はロシアのスパイだったことが発覚し、処刑されたと報じた。
「キレフ氏はウクライナ治安当局によって射殺された」
▽停戦協議に参加したキレフ氏2月28日(The SUN)
この情報に限ってはロシア国防省の発表が正しいと思える。この担当者以外にも、ウクライナ側は開戦前後の短期間にロシアの内通者を概ね無効力化させた可能性がある。
クレムリンの目論見は、戦端が開かれると同時に狂い、キーフ中枢を内側から突き崩す勢力は現れなかった。野望を打ち砕く有益な情報をもたらしたのは西側の諜報機関である。
▽虐殺五輪開会式で微睡むプーチン2月4日(タス)
敵国のスパイ一斉摘発といった戦争の舞台裏は、戦後暫くを経ても杳として歴史の闇に埋もれることも多い。しかし、キーフの政権が瞬殺の危機を乗り切り、1ヵ月近く持ち堪えているのは事実だ。
プーチンは「2日間戦争」に敗れた。
〆
最後まで読んで頂き有り難うございます
クリック1つが敵に浴びせる銃弾1発となります
↓

【お知らせ】
*拙ブログが西村さんの新著で大きく紹介されました。宜しくお願い致します。
参照:
□クレムリン公式(英語版)2月4日『Joint Statement of the Russian Federation and the People’s Republic of China on the International Relations Entering a New Era and the Global Sustainable Development』
参考記事:
□産経新聞3月12日『中国も米生物兵器説主張 情報戦でも露と連携』
□読売新聞3月7日『ロシア「ウクライナが核・生物兵器開発」と主張…侵攻を正当化か、真偽は不明』
□BBC3月15日『【解説】「ウクライナは生物兵器を開発している」ロシアの主張をファクトチェック』
□SAKISIRU3月8日『偽物?本物?河野太郎氏も注目するロシア情報機関分析官(?)の長文レポートが大反響』
□FNN3月14日『「6月にロシアがなくなる?」木村太郎と4人の専門家が読み解く ウクライナ侵攻“結末のシナリオ”』
□共同通信3月8日『ウクライナ侵攻は「完全な失敗」英紙「ロシア内部文書」報道』
□時事通信3月14日『ロシア情報機関に異変か 「誤算」で幹部軟禁、内部告発も―ウクライナ侵攻』
□AFP3月17日『ウクライナ侵攻で裏切り者露呈 社会を「浄化」 ロシア大統領府』
□The SUN3月5日『SPY 'EXECUTED' Ukraine peace negotiator shot dead ‘defending the nation’ amid claims he was a ‘double agent’ working for Russia』
□FNN3月7日『スパイだった?停戦交渉のウクライナ代表団の1人が射殺 専門家「双方が情報戦」』
「ロシアは軍事活動により米国の生物軍事計画を突き止めた」
中共外交部のスポークスマンは3月8日、ロシアの宣伝工作に相乗りして吠えた。開戦以来、これほど活き活きとした北京の姿を見るのは久しぶりだ。
「ロシアが明らかにした証拠は、米国がコウモリ等の実験を通じて生物兵器の放出手段を獲得したことや特定の人種を狙ったバイオ研究を行なっていた可能性を示している」
▽会見で毒づく中共外交部報道官3月16日(人民網)
会見で連日のように米国の“機能獲得実験”に言及し、宣伝機関も大きく伝えた。裏読みせずとも自己紹介に聞こえる。武漢ウイルス生物兵器説を改めて検証する必要があるのではないか。
発端は3月6日のロシア国防省発表だ。それによるとウクライナは米国から資金提供を受け、ペストや炭疽菌の病原体を用いた生物兵器の開発を進めていたという。
「ウクライナには生物学研究施設があり、ロシア軍が掌握しようと試みるのではないかと深く懸念している」
▽上院公聴会で答弁するヌーランド3月8日(CNN)
ハザールの魔女ことヌーランド米国務次官が上院外交委公聴会で、そう答弁し、中共の悪ノリに拍車をかけた。米国が過去にウクライナのバイオ研究所に関与していたことは事実である。
北朝鮮の第2次核危機で米「ナン=ルーガー計画」の拡大適用が取り沙汰されたことを思い出す。同計画は90年代に旧ソ連諸国に残るNBC兵器の安全な処理を支援する為の大規模事業だった。
▽同計画に基づく米国防長官ウクライナ訪問’96年(Time)
ウクライナにはソ連解体後、生物兵器関連の遺棄物もあったのだ。ロシアも中共もナン=ルーガー計画の経緯・詳細を知りながら煽る。だが、それは思い付きの誹謗中傷ではなかった。
【侵攻理由の“逐次投入”で唐突なWMD疑惑】
「双方は米国とその同盟国による国内外の生物兵器活動が、BWCの遵守に関する国際社会に深刻な懸念と疑問を提起することを強調する」
2月4日発表の中露共同声明には異様な文言が盛り込まれていた。何の証拠も示さず、米国や同盟国のBWC(生物兵器禁止条約)違反を指摘。地域の安全保障環境に害を与える脅威と断定したのだ。
▽冬季虐殺五輪開幕日の中露首脳会談(BBC)
我が国では福島“放射能汚染水”の表現が問題視されたが、このBWC違反断定は全く報道されていない。海外の専門家は、中露首脳の重要な声明に明白な虚偽が記されたことは冷戦後に前例がないと驚く。
参照:Bulletin of the Atomic Scientists3月10日『Russian nuclear and biological disinformation undermines treaties on weapons of mass destruction』
中共によるウクライナ生物兵器キャンペーンは単なる悪ノリでもロシアの尻馬に乗る暴言でもない。武漢ウイルスの天然説に行き詰まり、米軍研究所起源説にシフトした中共にとっては最後の賭けである。
▽武漢ウイルス研究所の実験棟'20年(共同)
ウクライナ戦争に関して中共は曖昧な態度で、逃げ道も用意していると論評されるが、2月上旬の時点で旗幟は鮮明だったのだ。中共指導部はプーチンと運命を共にし、既に退路は絶たれている。
一方で、米生物兵器を非難した声明から1ヵ月が過ぎた頃、ロシアが唐突に持ち出したことは違和感が甚だしい。プーチンの宣戦布告でも長い歴史講義でも全く触れていなかった。
「ウクライナは今、核兵器を取得し、核保有国の地位を得ようとしている。見過ごす訳にはいかない」
▽国際女性デーに合わせたイベント3月5日(ロイター)
プーチンは女性を集めた会合で3月5日、そう語った。ロシア国営メディアは翌日から、ウクライナが「ダーディー・ボム」の製造を進め、半年以内に核兵器開発を成功させるなどと一斉に伝え始めた。
NBC兵器の揃い踏みである。核関連の追及は、チェルノブイリ原発制圧を正当化させる為の苦しい言い訳だが、開戦前にウクライナのWMD(大量破壊兵器)疑惑に言及することはなかった。
▽露軍が制圧したチェルノブイリ原発3月10日(AFP)
戦力の逐次投入は愚策の代名詞とされる。しかし、侵攻理由の逐次投入は過去に例がない。開戦の大義だった「虐殺の危機に晒されるロシア系100万人の救出」は、どこに消えたのか。
【粛清宣言で信憑性増す情報機関内紛説】
開戦理由の“逐次投入”はプーチンが激しく動揺し、焦り始めた証拠だ。ただし直接の原因は判然としない。ウクライナ侵攻部隊の停滞も、国際社会からのロシア孤立も3月上旬までには明らかだった。
「主要部隊と連絡が取れていない。ロシアは追い詰められている。勝利の選択肢はなく、敗北のみだ」
英タイムズ紙は3月7日、“プーチンの戦争”を真正面から批判する内部文書をすっぱ抜いた。ロシア最高位の情報機関=FSB(露連邦保安庁)分析官がリークしたとされる2000頁の報告書だ。
▽KGBを継承する露FSBの本部庁舎’15年(ロイター)
ロシア国内の反政府系サイト「Gullagnet」がFSB関係者から告発を受け、英紙に流したという。同サイトの正体は不明で、フェイクの疑いが排除できない性質のリポートだった。
ところが数日後、ロ独立系メディアがFSB幹部が自宅軟禁中であるとの情報を提供する。事実であれば、侵攻部隊の停滞、作戦のミスについてFSB幹部が責任を負わされた可能性が高い。
▽東部スムイ州で破壊された露軍戦車3月7日(共同)
「開戦に先立ち、ウクライナの政治状況分析を担当した第5局は、プーチンの機嫌を損ねないよう聞き心地の良い報告だけを上げた」
独立系メディアは、そう指摘する。第5局とは、旧ソ連諸国の親ロ派勢力を育成・支援する役割も持つ対外謀略部門の通称だ。この情報もソースが不明瞭で、額面通りには受け取れなかった。しかし…
「ロシア人は真の愛国者と裏切り者を常に見分けることが出来る。裏切り者は口に飛び込んできたハエのように吐き出すのみだ」
▽一部公開されたプーチン会合の模様3月16日(AP)
プーチンは3月16日、TV中継された政府会合で反逆者の粛清を宣言した。反戦市民の弾圧強化といった次元ではなく、国家機関幹部級の反逆者摘発だ。そこからFSBリーク情報の信憑性は一気に高まった。
「誰がウクライナの電撃戦を発案したのか判らない。最も重要なのは、誰も開戦を知られされていなかったことだ」
FSB分析官は内部告発リポートで、そう明かす。ウクライナ側の強い反ロシア感情をチェチェンに準え、親ロ派の人々さえ「公に反発している」と指摘する。
▽歓迎ムードなきドネツクの市街地3月12日(ロイター)
プーチンが開戦の大義で迷走したのは、事前の現地報告と現実の差を知った為ではないか。東部に侵攻したロシア軍は解放軍扱いされず、救世主とも見做されなかったのだ。
【プーチン2日間戦争の敗因】
「反ロシアのウクライナはもう存在しない。ウクライナは戻って来た」
ロシア側の勝利を祝う国営ノーボスチ通信の誤配信が見つかり、話題となった。予定稿が手違いで公開に至ったとみられ、直後に削除された。投稿日時はモスクワ時間の2月26日朝だ。
プーチンは開戦後2日間、48時間以内に作戦を完了する見通しだった可能性が高い。ロ軍側にキーフを陥す圧倒的な陸戦力がなく、また進軍部隊が首都近郊で停止した理由も説明できるだろう。
▽ウクライナ軍によるキーフの検問所3月15日(AFP)
軍事的に制圧する必要はなかった。プーチンは電撃戦で「衝撃と畏怖」をウクライナ国民に与え、ゼレンスキー大統領に代わる親ロ派の新たな政権を樹立する腹積もりだった。
ヤヌコビッチ追放劇に繋がった民衆蜂起・騒乱のような不安定な戦術は用いない。ゼレンスキー政権の中枢を粉砕し、親ロ派議員らによる暫定政権を発足させる目論みだったと推理する。
▽自撮り動画で生存伝える大統領と側近2月26日(ロイター)
侵攻開始の直後、現政権の幹部を捕縛して偽の降伏宣言を発布。それに呼応する形で、内通する議員や政府幹部が臨時政権を立て、ロシア側の意のまま停戦合意、東部の領土を割譲するシナリオだ。
鍵を握るのはウクライナ国会の約13%を占める親ロ派政党の議員ではない。浸透工作の本家・ロシアは、ゼレンスキーの側近など政権中枢にも内通者を仕立て、有利に進める手筈だったと考える。
▽独議会で演説するゼレンスキー大統領3月17日(AFP)
「ゼレンスキーと彼の代理人を最初の3日間で拘束し、彼らが屈辱的な降伏をしたなら、抵抗は最小限に抑えられた」
内部告発リポートのFSB分析官は、そう指摘する。大統領を捕縛するのは誰か。隠れ親ロ派の近衛部隊幹部が暗躍するケースも想定できるが、実際には動かず、空爆の最中も政権中枢は安泰だった。
3回目の停戦協議を前に、ウクライナ側の交渉担当者が殺害されていた事実が判明した。英サン紙は、交渉担当者はロシアのスパイだったことが発覚し、処刑されたと報じた。
「キレフ氏はウクライナ治安当局によって射殺された」
▽停戦協議に参加したキレフ氏2月28日(The SUN)
この情報に限ってはロシア国防省の発表が正しいと思える。この担当者以外にも、ウクライナ側は開戦前後の短期間にロシアの内通者を概ね無効力化させた可能性がある。
クレムリンの目論見は、戦端が開かれると同時に狂い、キーフ中枢を内側から突き崩す勢力は現れなかった。野望を打ち砕く有益な情報をもたらしたのは西側の諜報機関である。
▽虐殺五輪開会式で微睡むプーチン2月4日(タス)
敵国のスパイ一斉摘発といった戦争の舞台裏は、戦後暫くを経ても杳として歴史の闇に埋もれることも多い。しかし、キーフの政権が瞬殺の危機を乗り切り、1ヵ月近く持ち堪えているのは事実だ。
プーチンは「2日間戦争」に敗れた。
〆
最後まで読んで頂き有り難うございます
クリック1つが敵に浴びせる銃弾1発となります
↓

【お知らせ】
*拙ブログが西村さんの新著で大きく紹介されました。宜しくお願い致します。
参照:
□クレムリン公式(英語版)2月4日『Joint Statement of the Russian Federation and the People’s Republic of China on the International Relations Entering a New Era and the Global Sustainable Development』
参考記事:
□産経新聞3月12日『中国も米生物兵器説主張 情報戦でも露と連携』
□読売新聞3月7日『ロシア「ウクライナが核・生物兵器開発」と主張…侵攻を正当化か、真偽は不明』
□BBC3月15日『【解説】「ウクライナは生物兵器を開発している」ロシアの主張をファクトチェック』
□SAKISIRU3月8日『偽物?本物?河野太郎氏も注目するロシア情報機関分析官(?)の長文レポートが大反響』
□FNN3月14日『「6月にロシアがなくなる?」木村太郎と4人の専門家が読み解く ウクライナ侵攻“結末のシナリオ”』
□共同通信3月8日『ウクライナ侵攻は「完全な失敗」英紙「ロシア内部文書」報道』
□時事通信3月14日『ロシア情報機関に異変か 「誤算」で幹部軟禁、内部告発も―ウクライナ侵攻』
□AFP3月17日『ウクライナ侵攻で裏切り者露呈 社会を「浄化」 ロシア大統領府』
□The SUN3月5日『SPY 'EXECUTED' Ukraine peace negotiator shot dead ‘defending the nation’ amid claims he was a ‘double agent’ working for Russia』
□FNN3月7日『スパイだった?停戦交渉のウクライナ代表団の1人が射殺 専門家「双方が情報戦」』
この記事へのコメント
多くのロシア人の心がロシアの中を飛び回るようになってきたが誰もそれに気づかないようだ。
今回ロシア正教の指導者の発言が入ってきた。
それを読んで多くのロシア人は今何が起こっているかを掴んだはずだ。
プーチン政権はまだ続くだろう。
ロシアとウクライナの問題はヨーロッパの問題だがロシアは地理的に中東とも中央アジアとも沿海州にまで影響力を持つ。
この広大の領域を占めるロシアの指導者がプーチンである。
彼のロシアに対する愛情は深い。
彼はロシア国内の多くの民族集団に対して彼らが反政府運動に関係しないのであれば寛容であるという。
ソビエトはそうでもなかった。
ここに一つの可能性がある。
プーチンは東アジアの米軍を嫌う。
それならば沿海州のロシアをクレムリンから切り離し別な政治体制にして日本・韓国と話し合えばいい。
ロシアの中央アジア諸国が参考になる。
その条件は
東アジアから米軍を撤退させる引き換えとして北にロシア軍を再び投入して統一朝鮮を立ち上げる、日本に対しては北方4島を返還する。
その際には先ず天皇陛下にその旨を伝えて既存の日本の政治勢力を
排除していく。
韓国の大統領についてユンソクヒョルが就任する。
これで何か期待する人がいるかもしれないが私は何も期待しない。
彼は韓国企業・韓国軍に不必要には介入しない人物だ。
向こう10年間で韓国企業・韓国軍事産業の技術革新は加速度的に
向上するだろうが北の軍事技術は核ミサイルのみだろう。
北には民間企業の技術革新はない。
韓国とロシアは軍事兵器の輸出において今やライバルとなっている。間もなく両者の共同生産の話がそこかしこから出てくるだろう。韓国の安全保障はそれにつれて大きく変化する。
韓国とロシアだけではなくて韓国と米国の共同生産も同様だ。
そうなれば韓国は独自の立場で北と交渉できるだけではなくて
北は国際的に追い込まれる。
ロシアは韓国の経済投資を日本と同様に呼び込もうとする。
今回のロシアに対する経済的締め付けはその可能性を暗示している。
韓国の政治が韓国企業・韓国軍事産業の努力に干渉しなければ話は前に行く。
というのは韓国人は日本人と同様に人種・民族に対する排外意識が
非常に強い。それが加速度的な技術革新をもたらすことに世界は気づいていない。
の反応を聞くとやはりロシアはヨーロッパロシアが中心であると
確信をした。
ロシア沿海州を含むロシア西部には未だに数百万人の人口そして
その中には多くのアジア系ロシア人が入っている。
天候のせいもあるだろうがこれでロシアであれば極端な差だ。
ロシアは中国からの移民を歓迎しない、あまりに人間の数が
違いすぎる。
ロシアは今までの日本との交渉で日本からの資金・技術を期待したが日本の対応はあまりにお粗末だった。
プーチンがムンジェインと話をしたことがある。
ムンジェインはプーチンに向かって南北間の鉄道を開設したいと力説した。
そうすればヨーロッパと朝鮮をつなぐインフラが出来上がりロシアも利用できるとね。
その鉄道建設に要する資金と技術の話は何もない。
その一方中国は中国国内に高速鉄道網を作っている。
次は中央アジアからヨーロッパだ、というのは中国は必要な
資金と技術を持っている。
運航に必要な鉄道技術は何といっても日本の新幹線である。
韓国の企業と軍の技術革新の勢いが急速に進んでいるが
その詳細は技術者でなければ評価できない。
韓国の政治を話す日本の大手マスコミ等何も知らない。
韓国の中心は韓国の技術革新に努力する物いわぬ技術者である。
彼らが韓国を支えている。
次期大統領などどうでもいいがとにかく邪魔をしなければいい。
間もなくロシアと韓国の間に新しい安全保障の関係が始まる
だろうが問題は韓国の社会にはびこる民族と人種に対する
根深い偏見であるが、これは日本の社会も同様である。
それと対照的なのがロシア沿海州を含むロシア西部である。
夜になっても出歩いて飲める一杯飲み屋がなくても
彼らはロシアで生きている。
アメリカのドル支配が大きな壁になりつつあるようだ。