プーチンの世界最終戦争論…核恫喝は寝耳に響かない

核攻撃の目標は「ワシントンが最適」とロシアの論者が吼える。クレムリンの恫喝に寝たふりを決め込む米政権。危険度は半世紀前の“運命の数日間”を遥かに超えている。
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その夜、クレムリンの親分はウォッカと睡眠薬のカクテルで錯乱状態だった。一方、ホワイトハウスの主は泥酔し、起き上がることも出来なかった。米国がデフコン3を発動し、核戦争の危機が迫っていた。

デフコンとは米国の防衛準備態勢を示すもので、平時のランク5から核攻撃を想定した最高ランク1までの5段階。キューバ危機のデフコン4発令が米戦後史上最も高い。
▽米博物館展示のミサイルサイロ'15年(AFP)
米博物館の核ミサイルサイロ'15年(AFP).jpg

キューバ危機が米ソ全面核戦争の一歩手前だったことは良く知られている。だが、ヨム・キプール戦争の最中に発令された1973年10月のデフコン3こそ世界終末時計の針が天辺に迫るものだった。

何しろ米大統領が寝ている間に決まったのだ。当時、ニクソン大統領はウォーターゲート事件発覚で集中砲火を浴び、ストレスを抱えてヤケ酒を呷ることが多くなっていた。
▽ニクソン・ブレジネフ会談’73年6月(RB)
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代わりにホワイトハウスで指揮を執ったのが、安保問題担当の補佐官だったキッシンジャーだ。同氏については高評価狙いの伝説が目立つが、デフコン3発令の経緯は検証済みの事実である。

ヨム・キプール戦争はエジプト・シリア連合軍が電撃的な挟撃に成功。緒戦で大敗したイスラエル軍の反転攻勢が実り、エジプト精鋭部隊を包囲した所で、米ソ主導の安保理停戦決議が採択された。



しかし双方が決議違反を主張し、戦闘が続いた。米国は偵察情報からソ連が核弾頭をエジプトに移送したことを確信。そこにソ連軍派兵を示唆するブレジネフの書簡が米国に届く。

米ミサイル発射施設は即応態勢を整え、爆撃機には核弾頭が積まれた。米ソの核攻撃応酬で2000万人が犠牲になると推計されたが、ホワイトハウスは覚悟の上でデフコン3を発令した。
▽メイア元首相とサダト大統領’77年11月(file)
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この危機はサダト大統領とメイア首相の会談実施発表で回避される。問題は、米ソ首脳が状況を終始コントロール出来なかったことだ。ブレジネフは最後までサダトに振り回され、道化師を演じた。

悲惨なのはニクソンだった。泥酔中のデフコン3発令。翌朝8時過ぎに目覚め、米国が核戦争の危機に瀕していることを知ったのだ。

【稲妻スピードの報復攻撃】

「核兵器で対立を煽ることは両国の安全保障にとって無益で、核保有国が、その話題を持ち出すことは無責任だ」

米国防総省のカービー報道官は4月27日、渋い表情でそう語った。核兵器の使用をチラつかせるロシアの恫喝は、芳しくないウクライナ東南部の戦況と相まって度し難くなった。

「今やリスクはかなり高い。人為的にリスクを高めたくないが、多くの人がそれを望んでいる。危険は深刻かつ現実的だ」
▽警告するラブロフ外相4月25日(ロイター動画より)
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ロシアのラブロフ外相は4月25日、出演した政府系テレビの番組で声高に訴えた。キューバ危機との比較を問われた際の発言で、核戦争のリスクについて「過小評価すべきではない」と警告する。

プーチンは更に踏み込んで脅す。4月27日、故郷サンクトペテルブルクで開いた会合で、第三国がロシアに「戦略的脅威」を与えた際の対処だとして、こう語った。

「外部が介入するならば、報復攻撃は稲妻のように素早い。我々はその為の手段を持っており、使用に必要な決定もなされている」
▽会合で演説するプーチン4月27日(TASS)
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こちらも暗示的だが、稲妻スピードの攻撃が核ミサイルであることは疑いようもない。そして、戦争プロパガンダで荒ぶるロシア国営メディアは、NGワードも気に掛けない。

「ロシア国民も指導者も諦めない。一発の核攻撃で全てが終わる結末の方があり得る」

国営テレビの“討論番組”でメディア幹部らが語った内容だという。前後の文脈は不明瞭だが、第3次大戦の可能性に触れ、介入を防ぐ目的で核攻撃が選択肢に挙げられた模様だ。
▽番組で発言したRTシモニャン編集長(日経)
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「ここ数ヵ月、ロシアのテレビで放送された“核ホロコースト”に関する最も衝撃的な宣言」

参照:Daily Beast4月27日『Putin’s Stooges: He May Nuke Us All but We Are Ready to Die』

番組内容を速報した米ニュースサイト「デイリー・ビースト」の記者は、そう指摘する。同記者によれば、出演者は話を纏める雰囲気の中で、こう語ったという。

「奴らはただ死ぬだけだが、私たちは天国に行けるだろう」

詩的な表現ではく、核攻撃の応酬を前提にしたセリフである。つまり想定するミサイルは、ウクライナ国内に打ち込む戦術核ではなく、大陸を跨ぐ戦略核。そして明示する矛先は米首都だ。

【先制核攻撃の曖昧なレッドライン】

「ロンドンに最終的な決定権はない。西側の中心であるワシントンを攻撃する必要がある」

プロパガンダ番組で吼えるモスクワ州立大の副学部長が、影響力を持つ識者か、目立ちたがりの電波芸者か、詳細は不明だ。脅し文句に過ぎないとしても物騒で、不吉なトーンを含んでいる。

「ロシアは世界で最も強力な核保有国のひとつで、最新鋭兵器もある。我々に攻撃を加えれば不幸な結果となるのは明白だ」
▽宣戦布告するプーチン2月24日(ロイター)
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宣戦布告演説に盛り込まれた表現は、NATO介入阻止を目的にした恫喝だった。しかし、ハッタリだと小馬鹿にされると、直ちにプーチンは「抑止力部隊」の警戒態勢移行を公然と命じた。

ロシアで「エスカレーション抑止」は限定核攻撃を意味する。高度な警戒態勢に入った抑止力部隊とは核部隊だ。それでもNATO側の反応は淡白で、米政府もデフコン変動の「理由はない」と突き放した。

参照:ロイター3月1日『米、現時点で核警戒レベル変更せず=報道官』

緒戦でプーチンが脅しに使っていた核戦力は、低出力・短射程の戦術核だった。ウクライナの都市・軍事拠点をピンポイントで破壊し、戦局を有利にする為の限定的な核攻撃だ。
▽開戦直前のミサイル発射演習2月19日(露国防省)
開戦直前のミサイル発射演習2月19日(露国防省).jpg

それが開戦2ヵ月を経て、第三国を標的にする大型の戦略核にシフトしている。ロシア人識者の放言だけではなく、ラブロフ外相はキューバ危機と比較して「現実的なリスク」と語った。

プーチンが言う“稲妻の攻撃”もNATO諸国に対する報復と定義している。露メディアが北朝鮮テイストで大宣伝した新型ICBM「サルマト」のレンジは1万8000kmで、複数の核弾頭を搭載可能だ。
▽「サルマト」の発射実験4月20日(ロイター)
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開戦前の仏露首脳会談で、プーチンは核の先制使用に関するレッドラインを示した。それはウクライナのNATO加盟だったが、今やロシアに対する第三国の「戦略的脅威」に変容した。

プーチン政権の受け取り方次第、ロシア側の解釈に頼る曖昧さに危険が潜む。

【出口なきプーチン最期の決断】

「ロシアの核能力を連日、最大限監視し続けているが、核兵器使用の脅威はなく、NATO域内への脅威もないと評価する」

米国防総省高官は4月末、そう記者団に語った。高度警戒態勢を命じられたロシア軍核部隊に特異な変化はなく、クレムリンの恫喝に過ぎないとする見方である。
▽米主催のウクライナ支援国会合4月26日(ロイター)
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米英のメディアも政府のリアクションに従って殊更に騒ぎ立てず、ロシア側のプロパガンダを軽く受け流す。核攻撃を巡る国民のパニックは避けられても、リスク分析まで放棄することは不誠実だ。

米BASの世界終末時計もウクライナ戦争勃発後、1秒も進んでいない。時計の針は残り1分40秒を指し示すが、理由はパンデミックや気候変動などで、浮世離れしたリベラル臭が鼻に付く。
▽終末時計の残り時間発表会1月20日(共同)
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例えブラフであろうと、核のボタンを握る戦争中の指導者が公然と発言しているのだ。軍の動向とは別に、不確定要素を加味して最悪の事態を想定すべきである。

現状、キーウにクレムリンの傀儡政権が誕生する可能性はなくなり、実効支配するクリミアやドンバスも失いかねない。完勝の夢は早々に潰え、プーチンは出口戦略を見定められずにいる。
▽衰えが目立つプーチン4月21日(ロイター)
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米政権の見え透いた罠に嵌るほどプーチンは愚かではなく、頭脳明晰で計算高い…そう筆者は評価し、一部の発狂説・健康不安説を“西側の情報戦”と切り捨てたが、急に自信がなくなってきた。

マッチョなプーチンは過去の存在だ。ピョートル大帝はおろか、自身がイワン雷帝にも劣ると知り、愛娘がアナスタシア皇女と同じ運命を辿ると悟った時、決定権を持つ男は、どう始末をつけるのか。
▽プーチンと2人の愛娘’02年(BBC)
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MAD(相互確証破壊)は冷戦期、核大国の乱打戦を抑止する概念と見做された。しかし、一方の大国指導者が自滅を覚悟した場合、抑止効果は消失する。個人にとっての最終戦争が視野に入るのだ。

華々しい国際舞台復帰の道は全て断たれ、部下の反旗に怯える日々が続く。ウォッカと睡眠薬で譫妄状態だったブレジネフを凌駕する程に、プーチンの精神状態は不安定で、追い詰められている。
▽ジュネーブ会談の米ロ指導者'21年6月(AP)
ジュネーブ会談の2人'21年6月(AP通信).jpg

一方のバイデンは痴呆症が進行し、ニクソンと違って昼間も寝ている。終末時計は午後11時58分20秒。だが状況は、ヨム・キプール戦争の“運命の数日間”より危機的で、見通しが暗い。



最後まで読んで頂き有り難うございます
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参照:
□The Aviation Geek Club’22年3月14日『The DEFCON System and which levels US Forces have been in the Past』

参考記事:
□産経新聞4月28日『「対抗措置は電撃的だ」 プーチン露大統領、核使用改めて示唆』
□読売新聞4月28日『プーチン氏が米欧威嚇「稲妻のような報復攻撃を」、核戦力を念頭か…米側は「無責任だ」』
□BBC4月26日『ロシア外相、核戦争のリスクに言及 ウクライナで兵器輸送の鉄道への攻撃相次ぐ』
□AFP4月26日『「第3次大戦」に発展の恐れ ロシア外相が警告』
□ニューズウィーク4月28日『「どうせいずれは皆死ぬ」「それでも我々は天国に行ける」ロシアTV、核攻撃前提のプロパガンダ?』
□ロイター4月30日『米、ロシア核兵器使用の脅威ないと認識=国防総省高官』
□時事通信4月16日『忍び寄る先制核使用の恐怖 プーチン大統領は本気なのか』
□ニューズウィーク2月8日『人類滅亡まであと100秒... 科学的根拠のない「世界終末時計」に価値はあるのか』
□プレジデント’21年10月10日『「2杯飲んだら記憶を失う」ニクソン大統領が呆れるほど酒に弱かったから米ソは核戦争を回避できた』

この記事へのコメント

日本を愛する日本人からひと言!
2022年05月01日 16:56
日本を愛する日本人からひと言!お見知りおき下さい。

新宿での参政党街宣に2000人集まる!!!

 昨日、新宿での街宣に約2000人の聴衆が集まりました。今、政治の世界で地殻変動が起こりつつあります。
 設立当初皆さんから"うま・しか"扱いされた党がここまで国民の支持を得るところまで参りました。

 https://twitter.com/i/status/1520511955471319040
金 国鎮
2022年05月04日 16:13
ウクライナの戦争が長期化してきた。
プーチンは兵力の不足を予備役の編入で補うという。
果たしてこれで兵力の不足並びに兵器の不足を補えるだろうか?
その一方。朝鮮半島沖に英仏を始めとするNATOの軍艦は出没しなくなった、歓迎すべき事態である。
英仏の軍艦はアメリカの国防長官の反対を押し切って彼らの行動を止めなかった。

彼らはシリアでも同様の行動を取った。
ロシアがアサド政権の要請で軍事介入した。
シリアの街にたてこもる英仏の傭兵を徹底した市街戦で駆逐した。

今回はウクライナだが英仏だけではなくてNATOとアメリカも協力している。
ロシアが北朝鮮に数十万の傭兵を要請すればいい。
その引き換えに北の住民に必要な食糧援助をすればいい。
これでウクライナの戦線でロシアが果たしている役割は明らかになっていく。
NATOの果たしている役割もだ。
彼らは幕末にも戦前のアジアに於いても同様の行動を取った。
戦前は旧日本軍が盾となり、今は中国軍が盾となっている。
今回はロシア軍と北朝鮮軍が盾となっていく。
最終的な結論はウクライナの軍事決戦である。
そこではゼレンスキーの言う話は寝言である。
金 国鎮
2022年07月19日 15:55
ロシアと北朝鮮が政治合意に達したようだ。
北朝鮮がウクライナ復興のために北の労働者を数万人派遣するというニュースだ。
ウクライナ東部の新ロシア派の指導者は北の労働者がよく働くという認識らしい。北の軍人も派遣されるだろう。
食糧の補給に事欠いていた北の人民には朗報だ。
かってこれと同じ発言をした指導者がリビアにもいた。
北の労働者ではなくて炎天下のリビアで働く韓国の労働者に対してである。カダフィである。
彼は欧米のはかかり事によって殺害された。
プーチンは占領したウクライナ東部を死守するだろう。

最近、EUからウクライナ内部の政治を告発する文書が出てくるようになった。彼らはゼレンスキー政権の正体に気づいたようだ。
事あるごとにアメリカとNATOからの武器援助を叫びウクライナの
一般住民の生活を無視してきたウクライナの政治の告発だ。
金 国鎮
2022年09月19日 16:34
ウクライナの軍事攻勢が始まり、ロシア軍の責任者からロシア軍の東部地域の再編成をするという。
ロシアのウクライナに対する軍事進攻以後、ロシア軍から始めて軍事作戦の情報が出てきた。そうすると今までの軍事作戦はプーチンを始めとするプーチン側近の政治による軍事作戦であったということになる。
であればキエフに侵攻してきたロシア軍戦車の長い列も頷ける。
多くのロシア人兵士・将校が亡くなったのも理解できる。
これから恐らくロシア軍の精鋭部隊が前線に投入されるだろうが
これは独ソ戦の展開に良く似ている。

独ソ戦に先立つスターリンの粛清によって多くのソビエト人将校が
収容所で亡くなったが、その隙をついてナチスドイツの軍がソビエトに軍事進攻してソビエトは追いつめられた。
ゾルゲ等の協力によって旧日本軍がソビエトに軍事進攻しないと知るやソビエト東部の精鋭部隊を西部戦線に突入させてナチスドイツの軍を駆逐した。今回も同様である。
精鋭部隊の一つに北朝鮮の人民軍部隊が入るかどうかが私の関心である。いずれにしてもロシア軍が再び持ち直そうとするなら兵力を
新しく投入しなければならない、それは職業軍人の集団である。
望めるのはロシア東部のロシア軍と北朝鮮の人民軍位だろう。

この結果プーチンの政治力は弱まる。
もし北朝鮮の人民軍が参加すればロシアから多くの資金と食糧が北に流れ込む、これは北に政治変動をもたらすだろう。
いずれにしてもロシア東部と東アジアに政治変動が起こる。
先の戦争で中国東北と北と千島列島・南樺太にソビエト軍が入り
今の状態が長く続いてきた。
ロシアと中国が協力すると言っても先の戦争ではスターリンは
首尾一貫国民党を応援していた。この種の話には付き合えない。
歓迎すべき事態になるかもしれない。

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