中朝血盟ゼロコロナ心中…平壌都市封鎖の歪んだ忠誠心
中共ゼロコロナ政策は異論弾圧の政治運動と化した。支配下のWHOにも裏切られ、依怙地になる習近平。北の3代目は忠誠を誓い、これまでの感染隠蔽路線を捨て去った。
顔面の半分を覆うマスクは、影武者にうってつけだ。造形が難しい耳は隠せないものの、額の傷痕と眼を修正すれば、金正恩の簡易版ボディダブルは完成する。
「建国以来の大動乱だ」
朝鮮労働党の幹部会議にマスク姿で登場した3代目は、そう大袈裟に語った。北宣伝機関は5月12日、国内で初めてのCOVID-19感染者を確認したと発表した。
▽平壌にあるレストランの消毒作業5月3日(共同)
武漢ウイルスのパンデミック発生後、2年以上続けられたゼロコロナ政策が終わった。もちろん、この場合のゼロとは感染者数ではなく、公式発表上のゼロを指す。
リーク情報によれば、北朝鮮内の感染死は’20年3月末までに1万人を突破。北部国境の軍部隊で蔓延した他、留学先の支那から帰国した党エリート2世が平壌に直接“空輸”したケースもあったと見られる。
「首都圏を中心に同時多発的に拡散した」
▽防疫部門から報告受ける金正恩5月12日(共同)
防疫部門を視察した金正恩は対策強化の訓示で、平壌が震源地であることを認めた。北宣伝機関によれば、4月下旬から「原因不明の熱病」が爆発的に拡大したという。
スターリンによるテロ工作部隊創設から90年目に当たる4月25日、平壌の金日成広場で軍事パレードが行われた。総動員数は不明だが、北当局は「史上最大の規模だった」と胸を張る。馬鹿なのか…
▽史上最大規模を謳う軍事パレード4月25日(KCNA)
化学防護部隊以外の参加者は全員ノーマスクで密集。動員は当日だけではなく、約1週間前から繰り返し予行練習が行われる。屋外がメーンとは言え、感染拡大の一翼を担ったことは間違いない。
金正恩指導部と朝鮮人民軍の威信を示すはずのイベントが裏目に出た。兵器のデコイを海外に見せ付ける一方、厄介なウイルスを市民にばら撒くビッグな自爆ショーでもあった。
【感染拡大中の触れ合いイベント】
大規模パレードの熱が残る中、参加者が金正恩を讃えるアフター・イベントも行われた。ノーマスクの学生が大声で3代目を迎える様子は、なかなか壮観である。
▽パレード参加者との交流イベント5月1日(KCNA)
ここに北宣伝機関が主張する感染拡大期との矛盾が生じる。「4月下旬」という時期は、パレード後と解釈できるが、学生らによる金正恩マンセー行事は5月1日だ。
「防疫事業での党組織の無能と無責任にも起因する」
防疫部門を視察したカリアゲマスクは責任者を叱責するシーンも見られた。何回目かの波に相当するオミクロン株の感染拡大が、指導部中枢に報告されず、暫く野放しになっていた可能性が高い。
▽防疫部門を視察する金正恩5月12日(AFP)
感染リスクが高まる中、実態を隠して金正恩を特定多数の市民が集まる場に“放流”してみた…そんな穿った見方も出来るが、30歳代の正恩にとって武漢ウイルスは生命を脅かすものでもない。
不都合な報告を側近が上げなかったか、単に防疫当局が把握しきれなかったとも考えられる。また、市民と近距離で接した人物が、感染リスクと無関係の影武者だったと説明することも可能だろう。
▽軍事パレード参加兵とも触れ合う4月29日公開(ロイター)
「北住民に対してワクチンを始めとする医薬品を支援する方針だ」
南鮮新大統領の尹錫悦(ユン・ソクヨル)は5月13日、北側と協議する意向を表明した。我が国でも政府の一部から医療支援に前のめりの声が上がっている模様だ。
人道支援名目で親北派が怪しく動くのは毎度のことだが、拙速な判断は危うい。今回、具体的な感染者数などを公表したのは、北の宣伝機関で、報告元は「国家非常防疫司令部」だという。
▽党幹部を招集して訓示する金正恩5月14日(AP)
この司令部の性質が良く分からない。朝鮮総連は「指揮部」と表記するが、いつ設置され、誰が責任者なのか、既存の保健部門とどう関連しているのかなど謎だらけで正体不明だ。
そもそも平壌にはWHOの連絡事務所がある。パンデミック初期から滞在するサルバドール所長は海外メディアに度々答えているが、今回は音信不通。5月12日時点でWHOへの通達は行われていなかった。
【都市封鎖でも弾道ミサイル発射】
「バス停には長い列が出来ていたし、急ぎ足で帰宅する者も見られた」
平壌市内の異変について情報提供者は米NKニュースに対し、そう話した。5月10日午後のことである。別の情報源からも「屋内待機を命じられた」との報告が相次いだという。
ロックダウン開始と決め付けることは出来ない。過去には黄砂が原因で外出が制限される事例もあった。SIPO(屋内退避命令)は公衆衛生上の措置とは限らないのだ。
▽平壌市内にある金親子の巨大肖像画5月6日(共同)
「全ての道・市・郡で自分の地域を徹底的に封鎖し、感染空間を隙間なく完璧に遮断せよ」
防疫司令部を視察した際の訓示は、全土の封鎖を明確に告げていたが公式発表はなかった。そして5月14日、中共CCTVが閑散とした平壌の風景を伝え、ロックダウン開始が明らかとなった。
元から“閉鎖空間”である平壌がロックダウンに至った所で、海外には何の影響もない。国際的なサプライ・チェーンから切り離されたスタンド・アローンの首都だ。
▽人通りのない平壌の市街地5月13日(共同)
理解に苦しむのは5月12日夜に短距離弾道ミサイル3基を日本海に向けて発射したことである。発射場は平壌郊外の順安。ロックダウン中の都市から弾道ミサイルを放ったケースは歴史上初だろう。
今回のミサイル発射について北宣伝機関は一切伝えていない。配給品を待つ市民に発射映像を見せても国威高揚には繋がらず、逆の効果を生むだけだ。
▽パレードに登場した「火星17号」4月25日(共同)
もっとも先進国と異なり、私権制限に対する市民の反発は表面化しない。北朝鮮は建国以来の不自由な統制国家である。ロックダウンを実行するに当たってのハードルは低かった。
だが、この時期に金正恩が感染者公表に踏み切った真意は、どこにあるのか…当局が感染ゼロと発表すれば、解決する問題だ。隠蔽不可能なレベルの感染爆発でも、支援目当ての被害者芝居でもない。
▽党幹部会議で演説する金正恩5月14日(共同)
「チャイナの党と人民が得た先進的で豊富な防疫成果と経験を積極的に学べ」
金正恩は5月14日の党幹部会議で、そう訓示した。“最大非常防疫”と銘打った厳戒態勢への移行、躊躇なきロックダウン強行…北朝鮮の大胆な政策転換を喜ぶ男が独り居る。
【近平と正恩のゼロコロナ心中】
「ゼロコロナ政策は持続可能ではない。別の戦略が必要だ」
ハニー漬けの飼い犬に手を噛まれた。WHOのテドロスは5月10日、中共のゼロコロナ政策を真正面から否定。習近平指導部はブチ切れて直ちに関連の投稿を検閲対象に組み込んだ。
▽北京市内を走るWHOテドロス2月(SNS)
テドロスは2年前、武漢ロックダウン開始直後に北京を訪れ、中共の対策を激賞した。そして今年2月に聖火ランナーとして招待された際も、異議を唱えることはなかった。正に突然変異である。
習近平にとっては最悪のタイミングで子飼いから批判された格好だ。5月5日に招集した党最高幹部会議で、黄熊はダイナミックなゼロコロナ政策堅持を主張し、こう命じたばかりだった。
「防疫方針政策を歪曲し、疑い、否定する一切の言動と断固戦わねばならない」
▽偽国会ですれ違うプーと李克強3月(AFP)
上海の過激なロックダウンが経済を破壊して続行される中、北京でも再び感染が拡大。「動態清零」と呼ばれる凶暴な封じ込め政策は、懐疑的な意見を弾圧する政治運動と化した。
支那各地で強権を発揮する防護服の服務員は「白衛兵」と渾名され、蔑まれる。紅衛兵が猛威を振るった文革と今のゼロコロナ政策を重ね合わすことは容易く、燻る火種は尽きない。
□上海アップル部品工場の反乱
ライバルの李克強が5月7日に出した雇用安定・生産再開を指示する声明は、政策批判とも受け取られた。序列7位の韓正は、プー派の上海市党書記に引責辞任を迫っているという。
参照:Financial Times5月8日『Shanghai lockdown tests Xi Jinping’s loyalties in China’s Communist party』
ゼロコロナ政策をめぐって習近平が立場を危うくする中、絶対的な支持を打ち出したのが金正恩だった。援軍として加勢する目的で、この時期に敢えて感染者公表に切り替えたとさえ思える。
▽平壌でプーを迎える正恩’19年6月(共同)
武漢ウイルスの感染者0人では、中共式のゼロコロナ政策を真似ることが出来ない。経済面への打撃を端から無視できる北朝鮮にとっては、負担の少ない安上がりの政策転換である。
習近平は飛び上がって喜んだに違いない。大量破壊兵器のパーツや各種資源などのウラ支援に加え、人道名目の援助を北朝鮮に惜しみなく、注ぎ込むだろう。しかし、ぬか喜びに過ぎない。
▽“防疫戦勝利”を讃える中共の党歴史館(RFA)
習近平政権はゼロコロナ政策を修正する機会を逸し、心中することが確定した。武漢肺炎はSARSと違い、突如消え去る流行病ではなかった。これからも大波と小波が繰り返し押し寄せる。
文革期の劉少奇や鄧小平に比べ、現在の政敵はいずれも小粒で迫力を欠く。だが、パンデミックの完全終息が遠い未来に先送りされる中、習近平の権力基盤は揺らぎ続け、党内抗争は激化する。
〆
最後まで読んで頂き有り難うございます
クリック1つが敵に浴びせる銃弾1発となります
↓

参考記事:
□JB Press5月12日『習近平がゼロコロナ堅持宣言で叩きにいく「もう1つの司令部」(福島香織)』
□産経新聞5月14日「「平壌がロックダウン」中国国営メディア現地報道』
□VOA5月12日『North Korea's Kim Orders Lockdown as First COVID-19 Outbreak Is Confirmed』
□NK NEWS5月10日『Lockdown orders issued in Pyongyang due to ‘national problem’: Source』
□読売新聞5月14日『金正恩氏「建国以来の大動乱だ」…感染ペース急加速か、1日だけで北朝鮮全土17万人超が発熱』
□産経新聞5月14日『北朝鮮コロナ、前日の10倍に 新たに21人死亡、金正恩氏「建国以来の大動乱」』
□ZAKZAK5月13日『北朝鮮で18万人隔離、コロナ感染〝初確認〟 流入隠蔽断念か 金正恩氏「隙間なく完璧に遮断」を指示』
□BBC5月12日『北朝鮮、新型ウイルス感染を「初」確認 ロックダウンを実施』
□時事通信5月14日『北朝鮮、コロナ感染爆発か 隔離・治療19万人―中国・国際機関に支援要請も』
□時事通信5月12日『北朝鮮、全国の都市を封鎖 支援要請可能性も―コロナ初確認に危機感』
□大紀元5月12日『中国、テドロスWHO事務局長の投稿を削除 ゼロコロナ批判後』
□ブルームバーグ5月11日『ゼロコロナか経済か、中国指導部内の対立観測も-メッセージちぐはぐ』
顔面の半分を覆うマスクは、影武者にうってつけだ。造形が難しい耳は隠せないものの、額の傷痕と眼を修正すれば、金正恩の簡易版ボディダブルは完成する。
「建国以来の大動乱だ」
朝鮮労働党の幹部会議にマスク姿で登場した3代目は、そう大袈裟に語った。北宣伝機関は5月12日、国内で初めてのCOVID-19感染者を確認したと発表した。
▽平壌にあるレストランの消毒作業5月3日(共同)
武漢ウイルスのパンデミック発生後、2年以上続けられたゼロコロナ政策が終わった。もちろん、この場合のゼロとは感染者数ではなく、公式発表上のゼロを指す。
リーク情報によれば、北朝鮮内の感染死は’20年3月末までに1万人を突破。北部国境の軍部隊で蔓延した他、留学先の支那から帰国した党エリート2世が平壌に直接“空輸”したケースもあったと見られる。
「首都圏を中心に同時多発的に拡散した」
▽防疫部門から報告受ける金正恩5月12日(共同)
防疫部門を視察した金正恩は対策強化の訓示で、平壌が震源地であることを認めた。北宣伝機関によれば、4月下旬から「原因不明の熱病」が爆発的に拡大したという。
スターリンによるテロ工作部隊創設から90年目に当たる4月25日、平壌の金日成広場で軍事パレードが行われた。総動員数は不明だが、北当局は「史上最大の規模だった」と胸を張る。馬鹿なのか…
▽史上最大規模を謳う軍事パレード4月25日(KCNA)
化学防護部隊以外の参加者は全員ノーマスクで密集。動員は当日だけではなく、約1週間前から繰り返し予行練習が行われる。屋外がメーンとは言え、感染拡大の一翼を担ったことは間違いない。
金正恩指導部と朝鮮人民軍の威信を示すはずのイベントが裏目に出た。兵器のデコイを海外に見せ付ける一方、厄介なウイルスを市民にばら撒くビッグな自爆ショーでもあった。
【感染拡大中の触れ合いイベント】
大規模パレードの熱が残る中、参加者が金正恩を讃えるアフター・イベントも行われた。ノーマスクの学生が大声で3代目を迎える様子は、なかなか壮観である。
▽パレード参加者との交流イベント5月1日(KCNA)
ここに北宣伝機関が主張する感染拡大期との矛盾が生じる。「4月下旬」という時期は、パレード後と解釈できるが、学生らによる金正恩マンセー行事は5月1日だ。
「防疫事業での党組織の無能と無責任にも起因する」
防疫部門を視察したカリアゲマスクは責任者を叱責するシーンも見られた。何回目かの波に相当するオミクロン株の感染拡大が、指導部中枢に報告されず、暫く野放しになっていた可能性が高い。
▽防疫部門を視察する金正恩5月12日(AFP)
感染リスクが高まる中、実態を隠して金正恩を特定多数の市民が集まる場に“放流”してみた…そんな穿った見方も出来るが、30歳代の正恩にとって武漢ウイルスは生命を脅かすものでもない。
不都合な報告を側近が上げなかったか、単に防疫当局が把握しきれなかったとも考えられる。また、市民と近距離で接した人物が、感染リスクと無関係の影武者だったと説明することも可能だろう。
▽軍事パレード参加兵とも触れ合う4月29日公開(ロイター)
「北住民に対してワクチンを始めとする医薬品を支援する方針だ」
南鮮新大統領の尹錫悦(ユン・ソクヨル)は5月13日、北側と協議する意向を表明した。我が国でも政府の一部から医療支援に前のめりの声が上がっている模様だ。
人道支援名目で親北派が怪しく動くのは毎度のことだが、拙速な判断は危うい。今回、具体的な感染者数などを公表したのは、北の宣伝機関で、報告元は「国家非常防疫司令部」だという。
▽党幹部を招集して訓示する金正恩5月14日(AP)
この司令部の性質が良く分からない。朝鮮総連は「指揮部」と表記するが、いつ設置され、誰が責任者なのか、既存の保健部門とどう関連しているのかなど謎だらけで正体不明だ。
そもそも平壌にはWHOの連絡事務所がある。パンデミック初期から滞在するサルバドール所長は海外メディアに度々答えているが、今回は音信不通。5月12日時点でWHOへの通達は行われていなかった。
【都市封鎖でも弾道ミサイル発射】
「バス停には長い列が出来ていたし、急ぎ足で帰宅する者も見られた」
平壌市内の異変について情報提供者は米NKニュースに対し、そう話した。5月10日午後のことである。別の情報源からも「屋内待機を命じられた」との報告が相次いだという。
ロックダウン開始と決め付けることは出来ない。過去には黄砂が原因で外出が制限される事例もあった。SIPO(屋内退避命令)は公衆衛生上の措置とは限らないのだ。
▽平壌市内にある金親子の巨大肖像画5月6日(共同)
「全ての道・市・郡で自分の地域を徹底的に封鎖し、感染空間を隙間なく完璧に遮断せよ」
防疫司令部を視察した際の訓示は、全土の封鎖を明確に告げていたが公式発表はなかった。そして5月14日、中共CCTVが閑散とした平壌の風景を伝え、ロックダウン開始が明らかとなった。
元から“閉鎖空間”である平壌がロックダウンに至った所で、海外には何の影響もない。国際的なサプライ・チェーンから切り離されたスタンド・アローンの首都だ。
▽人通りのない平壌の市街地5月13日(共同)
理解に苦しむのは5月12日夜に短距離弾道ミサイル3基を日本海に向けて発射したことである。発射場は平壌郊外の順安。ロックダウン中の都市から弾道ミサイルを放ったケースは歴史上初だろう。
今回のミサイル発射について北宣伝機関は一切伝えていない。配給品を待つ市民に発射映像を見せても国威高揚には繋がらず、逆の効果を生むだけだ。
▽パレードに登場した「火星17号」4月25日(共同)
もっとも先進国と異なり、私権制限に対する市民の反発は表面化しない。北朝鮮は建国以来の不自由な統制国家である。ロックダウンを実行するに当たってのハードルは低かった。
だが、この時期に金正恩が感染者公表に踏み切った真意は、どこにあるのか…当局が感染ゼロと発表すれば、解決する問題だ。隠蔽不可能なレベルの感染爆発でも、支援目当ての被害者芝居でもない。
▽党幹部会議で演説する金正恩5月14日(共同)
「チャイナの党と人民が得た先進的で豊富な防疫成果と経験を積極的に学べ」
金正恩は5月14日の党幹部会議で、そう訓示した。“最大非常防疫”と銘打った厳戒態勢への移行、躊躇なきロックダウン強行…北朝鮮の大胆な政策転換を喜ぶ男が独り居る。
【近平と正恩のゼロコロナ心中】
「ゼロコロナ政策は持続可能ではない。別の戦略が必要だ」
ハニー漬けの飼い犬に手を噛まれた。WHOのテドロスは5月10日、中共のゼロコロナ政策を真正面から否定。習近平指導部はブチ切れて直ちに関連の投稿を検閲対象に組み込んだ。
▽北京市内を走るWHOテドロス2月(SNS)
テドロスは2年前、武漢ロックダウン開始直後に北京を訪れ、中共の対策を激賞した。そして今年2月に聖火ランナーとして招待された際も、異議を唱えることはなかった。正に突然変異である。
習近平にとっては最悪のタイミングで子飼いから批判された格好だ。5月5日に招集した党最高幹部会議で、黄熊はダイナミックなゼロコロナ政策堅持を主張し、こう命じたばかりだった。
「防疫方針政策を歪曲し、疑い、否定する一切の言動と断固戦わねばならない」
▽偽国会ですれ違うプーと李克強3月(AFP)
上海の過激なロックダウンが経済を破壊して続行される中、北京でも再び感染が拡大。「動態清零」と呼ばれる凶暴な封じ込め政策は、懐疑的な意見を弾圧する政治運動と化した。
支那各地で強権を発揮する防護服の服務員は「白衛兵」と渾名され、蔑まれる。紅衛兵が猛威を振るった文革と今のゼロコロナ政策を重ね合わすことは容易く、燻る火種は尽きない。
□上海アップル部品工場の反乱
ライバルの李克強が5月7日に出した雇用安定・生産再開を指示する声明は、政策批判とも受け取られた。序列7位の韓正は、プー派の上海市党書記に引責辞任を迫っているという。
参照:Financial Times5月8日『Shanghai lockdown tests Xi Jinping’s loyalties in China’s Communist party』
ゼロコロナ政策をめぐって習近平が立場を危うくする中、絶対的な支持を打ち出したのが金正恩だった。援軍として加勢する目的で、この時期に敢えて感染者公表に切り替えたとさえ思える。
▽平壌でプーを迎える正恩’19年6月(共同)
武漢ウイルスの感染者0人では、中共式のゼロコロナ政策を真似ることが出来ない。経済面への打撃を端から無視できる北朝鮮にとっては、負担の少ない安上がりの政策転換である。
習近平は飛び上がって喜んだに違いない。大量破壊兵器のパーツや各種資源などのウラ支援に加え、人道名目の援助を北朝鮮に惜しみなく、注ぎ込むだろう。しかし、ぬか喜びに過ぎない。
▽“防疫戦勝利”を讃える中共の党歴史館(RFA)
習近平政権はゼロコロナ政策を修正する機会を逸し、心中することが確定した。武漢肺炎はSARSと違い、突如消え去る流行病ではなかった。これからも大波と小波が繰り返し押し寄せる。
文革期の劉少奇や鄧小平に比べ、現在の政敵はいずれも小粒で迫力を欠く。だが、パンデミックの完全終息が遠い未来に先送りされる中、習近平の権力基盤は揺らぎ続け、党内抗争は激化する。
〆
最後まで読んで頂き有り難うございます
クリック1つが敵に浴びせる銃弾1発となります
↓

参考記事:
□JB Press5月12日『習近平がゼロコロナ堅持宣言で叩きにいく「もう1つの司令部」(福島香織)』
□産経新聞5月14日「「平壌がロックダウン」中国国営メディア現地報道』
□VOA5月12日『North Korea's Kim Orders Lockdown as First COVID-19 Outbreak Is Confirmed』
□NK NEWS5月10日『Lockdown orders issued in Pyongyang due to ‘national problem’: Source』
□読売新聞5月14日『金正恩氏「建国以来の大動乱だ」…感染ペース急加速か、1日だけで北朝鮮全土17万人超が発熱』
□産経新聞5月14日『北朝鮮コロナ、前日の10倍に 新たに21人死亡、金正恩氏「建国以来の大動乱」』
□ZAKZAK5月13日『北朝鮮で18万人隔離、コロナ感染〝初確認〟 流入隠蔽断念か 金正恩氏「隙間なく完璧に遮断」を指示』
□BBC5月12日『北朝鮮、新型ウイルス感染を「初」確認 ロックダウンを実施』
□時事通信5月14日『北朝鮮、コロナ感染爆発か 隔離・治療19万人―中国・国際機関に支援要請も』
□時事通信5月12日『北朝鮮、全国の都市を封鎖 支援要請可能性も―コロナ初確認に危機感』
□大紀元5月12日『中国、テドロスWHO事務局長の投稿を削除 ゼロコロナ批判後』
□ブルームバーグ5月11日『ゼロコロナか経済か、中国指導部内の対立観測も-メッセージちぐはぐ』
この記事へのコメント