中共“ソロモン要塞”の奸計…新たなガダルカナル攻防戦

締結すれば世界大戦に巻き込まれる…驚愕の中共・南太平洋安保協定は英邁な小国リーダーの告発で粉砕された。だが、要衝ソロモンは奪われ、現代版ガダルカナル攻防戦も泥沼化する。
Fileガ島ホニアラの米海軍慰霊碑.jpg

「全員が同じ部屋で死亡していて、レジのお金は手付かずだった」

激しく炎上した商店の中で3人の遺体が発見された。警察当局は遺体の身元について早急な断定を避けたが、その後、死亡した3人が支那系であることが判った。
▽炎に包まれた首都ホニアラの支那人街’21年11月(ロイター)
ソロモン諸島の首都ホニアラの中国系住民が多い地区で起きた火災(11月25日、交流サイトの動画から)=ロイター.png

南太平洋の要衝、ソロモン諸島で昨年11月、近年で最も規模の大きい反中暴動が起きた。標的となったのは、ガダルカナル島・首都ホニアラ中心部にある支那人街だった。

民主派を名乗る反政権グループは、ソガバレ首相の自宅や国会を襲撃。事態はエスカレートし、約50軒の支那人商店に火が放たれ、一帯は炎と黒煙に包まれた。
▽炎上する国会横の政府施設’21年11月(AFP)
AFP21年ソロモン諸島の暴動で炎上する国会前の建物=11月24日、ホニアラ.jpg

「それが唯一の原因だ」

暴動についてソガバレ首相は、強引な“台湾国切り捨て”が問題であることを認めた。ソロモン諸島は’19年9月、台湾国と電撃的に断交し、中共と国交を樹立した。

これに怒ったのが、親台派が多いマライタ島の住民だ。同島のスイダニ州首相は断交後も台湾国と関係を深め、中共系企業を排除。独立の動きを見せるなど火種は燻り続けていた。
▽暴動が起きた首都の支那人街’21年11月(ロイター)
ソロモン首都ホニアラの中国系住民が多い地区で起きた火災11月25日ロイター.jpg

3日間に渡った暴動は、犠牲者こそ少なかったものの、政府の外交方針転換が、首都騒乱に発展した異例のケースだ。そして諸島内の「部族対立」で片付けられない太平洋地域の安保問題に繋がって行く。

暴動を受け、豪州は警官・兵士で構成される治安維持要員を送った。中共はこれに対抗し、公安関係者のソロモン派遣を決定。現地警察の訓練名目での長期的な駐在だ。
▽中共公安から指導受けるソロモン警察3月(ABC)
米ABC中共公安から始動受けるソロモン警察.jpeg

伝統的な保護国だった豪州を始め周辺国に強い衝撃が走った。しかし、それは序章に過ぎなかった。

【眠れるバンデン外交の致命的敗北】

「我々はもっと太平洋の島国と関わる必要がある」

バイデンは他人事のように感想を漏らした。5月31日に行われたNZアーダーン首相との会談でも、中共のソロモン諸島進出は喫緊のテーマとなったが、米政権の後手後手感は否めない。
▽NZ首相を迎えるバイデン5月31日(AP)
AP通信531バイデン米大統領(右)と会談するニュージーランドのアーダーン首相.jpg

「治安維持の為の軍派遣に加え、海軍艦艇の寄港・物資補給も可能となる」

ホニアラ反中暴動から4ヵ月を経た今年3月末、中共がソロモン諸島との安保協定締結に向け動いていたことが露見。協定草案には、中共駐留や海軍基地の設置を見据えた文言もあった。

「これはチャイナにとって太平洋地域で初めての橋頭堡になる」

豪州の安全保障専門家はそう指摘し、モリソン政権は不意を突かれて動揺していると解説した。米国は動きが鈍く、4月18日になって漸くキャンベルNSC調整官をソロモン諸島に送ると発表する。
▽ソロモン諸島の大まかな位置(読売)
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バイデン政権はソロモン側の説明を真に受け、安保協定の正式締結は5月上旬頃と信じきっていたのだ。だが、キャンベル派遣決定の直後、中共は同協定が既に署名されたと公表する。

4月22日にソロモン諸島を訪れたキャンベルは、全くの無駄足だった。これ程までの外交敗北は珍しい。中共に先手を打たれ、人口70万人の小国・ソロモン諸島の政府にも裏を描かれた。
▽ホニアラ入りしたキャンベル4月22日(AFP)
AFP米国家安全保障会議(NSC)のキャンベル・インド太平洋調整官=4月22日、ソロモン諸島・ホニアラ2.jpg

「チャイナの軍隊が恒久的に駐留し、軍事施設を構築するなら、米国は相応の措置を取る」

深刻な懸念を伝えた米国に対し、ソガバレ首相は杞憂だと返答。中共側も“ソロモン要塞”の建設を否定しているが、1ミリも信用できない。南シナ海が好い例だ。
▽共同会見に臨む習近平とオバマ’15年(ロイター)
ロイター15 年9月共同会見に臨む米中首脳.jpg

暗礁附近で埋め立てが始まった時、中共は航行安全の為の気象観測所を建てると説明。’15年に訪米した習近平はローズガーデンで「軍事化の意図はない」と宣誓し、直後に反故にした。

ソロモンに関しても米民主党政権の完敗、中共完勝の気配。習近平指導部は満を持して5月25日、外交部参事官クラスの王毅を太平洋8カ国歴訪の旅に送り出した。

しかし図に乗った途端、足を掬われるのもまた中共のお家芸である。

【小国指導者が世界大戦のフラグを折る】

10日間の日程で始まった王毅ら中共代表団の太平洋8ヵ国歴訪は、最初の訪問国であるソロモン諸島に足を踏み入れた時、既に暗雲が漂っていた。文書流出によって、中共の浸透シナリオが暴かれたのだ。
▽ソロモンに到着した王毅ら代表団5月25日(AFP)
ソロモンに到着した王毅ら代表団5月25日(AFP).img.jpeg

「チャイナの行動計画は豪州や日米、NZと衝突するリスクをもたらす可能性がある」

ミクロネシア連邦のパニュエロ大統領は、そう強く警告した。王毅がソロモン入りする前日、ロイター通信は中共が今回の歴訪で締結を目論む「安保協定」の草案を入手、スクープで報じた。
▽流出した安保協定含む共同計画の草案(RNZ)
流出した草案RNZ.png

流出文書の出元は定かではない。しかしパニュエロ大統領は同時期、協定内容の危うさを告発する公式書簡を太平洋島嶼国や豪・NZ政府に送っていた。

新たな協定案は、先にソロモンと結んだ安保協定の拡大バージョンだ。100万ドル支援や自由貿易区の設立といった経済面での甘い誘いに加え、訓練名目での中共公安派遣・駐在も含まれる。
▽ソロモンにはスタジアムを贈呈’21年7月(ITG)
ソロモンにはスタジアムを贈呈(ITG).png

「一帯一路」と称する植民地ベルト構想の南太平洋版でもあるが、経済支配に留まらず、同地域の安保環境は激変する。日米豪印のセキュリティ・ダイヤモンドが瓦解しなねない事態だ。

「チャイナの共同開発ビジョンは、南太平洋地域に新たな冷戦構造を作り出し、最悪の場合、我々は世界大戦に巻き込まれる」

パニュエロ大統領は書簡で、躊躇うことなく「world war」という単語を用い、CCPの狙いが台湾侵攻にあると訴えた。人口11万人弱の島嶼国に、慧眼を持った政治指導者が居る事実に驚く。
▽パニュエロ大統領が送付した書簡の一部(RNZ)
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そして5月30日にフィジーで開かれた中共・南太平洋9カ国外相会合で「安保連携協定」は合意に至らなかった。一部の参加国から懸念が示され、締結は先送りになったという。

会合に先立って豪新政権は外相をフィジーに派遣して懇談。米バイデン政権も5月26日にフィジーのIPEF(インド太平洋経済枠組み)参加を発表したが、どれほどの効果があったか怪しい。
▽UNで演説するパニュエロ大統領’19年(ロイター)
UN演説のパニュエロ大統領’19年(ロイター).jpg

南太平洋島嶼国の中共植民地化は、ミ連邦パニュエロ大統領の勇気ある告発によってギリギリの所で免れた。

【中共が占領したガ島で攻防戦が始まる】

ソロモン諸島の首都にあるホニアラ国際空港は、その昔、ルンガ飛行場と呼ばれた。昭和15年に我が軍が建設したものだ。戦地でジャングルを切り拓く過酷な工事だったという。

この飛行場の奪い合いから日米の熾烈なガダルカナル島攻防戦が始まった。米軍に占領された後も我が軍は奪還を試みる。米豪遮断作戦において、地政学上最も重要な場所だったのだ。
▽我が軍が基礎を作ったホニアラ国際空港(file)
ホニアラ国際空港.png

戦死者より餓死者が多かったガダルカナル島の攻防は、反日史観で殊更にクローズアップされる。だが、私たち日本人はソロモン諸島の戦い全般を決して忘れてはいけない。

幻のFS作戦に始まるソロモン諸島の戦いは、数多の水雷戦で海戦史に刻まれる。日米の艦船と戦闘機が眠る鉄底海峡(アイアンボトム・サウンド)は、ガ島とフロリダ島の間にある。
▽サボ島周辺に我が軍の主力艦艇が多数(wiki)
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米国にとっても忘れ難い激戦地だ。若き日のケネディ大統領が指揮する高速魚雷艇「PT-109」が、特型駆逐艦「天霧」によって撃沈されたのは諸島西部コロンバンガラ島沖だった。

ソロモン方面で散華された御英霊は8万柱を超す。連合軍側も1万人規模で、今も各軍の慰霊碑に花が手向けられる。この先人達が命を賭して戦い、守り抜いた島が中共に盗み取られてしまったのだ…
▽我が軍の慰霊碑のひとつ(全国ソロモン会)
我が軍の慰霊碑のひとつ(全国ソロモン会).jpg

戦後、米軍は僅かな期間で島を去り、’93年には行政改革の一環として大使館も撤去された。また部族対立解消を目指す豪主導のRAMSI(ソロモン支援ミッション)も’17年に終了する。

この空白を中共は見逃さなかった。少なくとも日米は、’19年に中共軍系企業がツラギ島を丸ごと借り上げる案が浮上した際、察知すべきだった。同島は今も駆逐艦「菊月」が残る激戦地だ。
▽ツラギ島に残る「菊月」(菊月保存会)
ツラギ島に残る「菊月」(提供:菊月保存会).jpg

「国民による選択は反映されていない。外交方針の転換は、海外有力者の支援を受けた少数の国会議員によって押し進められた」

台湾国との電撃断交について首都ホニアラの市民は、そう話す。首相に返り咲いたソガバレが中共マネーをバックに選挙戦を優位に進めたとの見方も根強い。

選挙を通じた民主主義国への介入は、中共の新戦略である。豪州のような先進国ですら問題が表面化するまでに時間を要した。地場産業の乏しい途上国など、ひと捻りだろう。
▽中共支援で重武装化するソロモン警察3月(AFP)
AFP3月中共公安指導で近代化する現地警察.png

そしてソロモンの場合は、警察機構との“業務提携”で反政府勢力や対立部族の弾圧が進む恐れも高い。独裁国家ならずとも、誕生した親中政権が永続する可能性がある。スリランカも似た構造だ。

中共と南太平洋の広域安保協定は、党大会前の成果を焦った習近平のいわば敵失もあって、防ぐことが出来た。だが、中央のソロモンに打ち込まれた楔を引き抜く作業は、困難を極める。
▽北京で歓待されるソガバレ首相:右’19年(CNN)
北京でソロモン諸島のソガバレ首相(右)と中国の李克強首相=2019年10月9日.jpg

21世紀の現代に蘇ったガダルカナル攻防戦も長期化は避けられない。



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参照:
□笹川平和財団4月25日『トランスフォーム・アコラウ博士、中国・ソロモン諸島条約の抜け穴を指摘』
□日本国際問題研究所5月12日『ソロモン諸島と中国との「安全保障協定」の締結』
□外務省HP『ソロモン諸島(Solomon Islands)基礎データ』
□『ミクロネシア連邦政府から豪NZ及び太平洋諸国等への書簡(英文PDF)』

参考記事:
□RNZ5月27日『FSM president warns Pacific leaders over China documents』
□ZAKZAK6月1日『南太平洋の支配失敗、習氏に〝大逆風〟西側との綱引き敗北で「今後の札束攻勢に警戒」 国内では経済減速に危機感、李克強首相と対立も』
□ JB Press6月2日『ぎりぎりで避けられた最悪の事態、中国と太平洋島嶼国の危うい合意が先送りに(福島香織)』
□ロイター5月30日『中国と太平洋島しょ国、安保で合意できず 一部が慎重姿勢』
□産経新聞5月30日『中国、安保協定の合意失敗 太平洋島嶼国と会議』
□ロイター5月25日『中国、太平洋島しょ国地域で包括合意模索 警察・安保協力』
□CNN'21年11月28日『ソロモン諸島の暴動、中国人街で焼死体3体を発見』
□JB Press’21年12月2日『ソロモン諸島チャイナタウンで暴動、背景にある中台バトルとは(福島香織)』
□産経新聞R3年12月28日『ソロモン諸島、中国が治安支援 警察関係者受け入れ』
□AFP’19年9月17日『台湾と断交のソロモン諸島、警察は中国系住民への反発警戒』
□AFP’19年10月25日『ソロモン諸島の島丸ごと賃貸、中国企業の契約は「無効」現地政府』

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