リコイルなき手製銃の作り方…テロ協力者は闇に追われる

凶弾は90m以上先の外壁を穿ったが、狙撃手の体勢は揺るがなかった…プロさえ模倣できない“無反動手製銃”。矛盾を孕む製造工程から暗殺テロ協力者の存在が浮かび上がる。
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なにがキッカケだったのか思い出せないが、その日、安宿のみんなと一緒に機関銃をブッ放しに行くことになった。シューティング・レンジは市中心部からさほど遠くない郊外にあった。

アンダーグラウンドな匂いの立ち籠める物騒な施設…ではなく、野っ原に粗末な小屋の簡素な構成。中年の男と雑用係の子供で、たまに来る客を捌いていた。田舎の釣り堀といった風情だ。

ただし、置いてある銃は充実し、AK47に加えてM16もあり、弾丸も豊富に備えているようだった。横流し品ではない。軍幹部が直営する小遣い稼ぎの“正規店”である。
▽弾倉にセットする店主と雑用係の子供(撮影日時:秘密)
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それぞれが2種類のアサルトライフルを軽快にぶっ放すことになった。M16用の弾丸が高価で、AK47用が激安だったのを覚えている。下手すれば東京マルイのBB弾より安い。

最初にAK47を撃ってみた。非常に重い。膝を付き、低い姿勢からセミオートで1発ずつ撃ったが、リコイル(反動)がきつい。40m以上も先にある標的の木板に当たるはずもなかった。

跳ね返る上下の動きだけではなく、左右にもブレる。例え弓道の霞的が数メートル先にあったとしても、当てる自信はない。実際、木板背後の土手から土埃が上がることも稀だ。
▽実際に撃ったM16とAK47(場所:某国)
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立ったままの姿勢であれば、リコイルはもっと激しく、制御不能に陥ったに違いない。エアガン等と異なり、少量にせよ爆発が起きるのだ。射撃前に恐怖心を覚えたのは、同行者の心ない一言だった。

「この銃、古そうだし、暴発とかしないのか」

アサルトライフルの暴発事故が、どのようなものか知らない。引き金の指が吹き飛ぶだけか、それとも顔半分が失われるのか…取り敢えず、同行者に先に撃たせて“安全性”を確認した。

【銃改造のプロも調整に失敗し暴発】

悲劇から随分と日が経ってから、テロ事件の瞬間映像をチラ見した。嫌な作業だが、SNSで素朴な疑問が提起されていたのだ。それは山上が発射した際、リコイルが全くないという指摘だった。

なるほど、バレルは大きく跳ね上がっているが、テロリストの身体が仰反ることはなかった。しかも、駆け足とは言えないまでも、立ちの姿勢で前進している。

7月末、米国の銃器メーカー創業者が、同じタイプの手製銃を作成し、試射映像を公開。テーブルにしっかり固定し、遠隔操作で撃った所、反動は凄まじく、パーツも高速で吹き飛んだ。
□オリジナル削除後のミラー動画


単純比較は出来ない。正確に火薬量を同等にした訳ではなく、威力には差が出る。しかし、試射したブランドン・ヘレーラ氏によると、火薬量を減らすと銃弾の推進力が失われるという。

では、山上がセットした火薬量は、どの程度だったのか。推測の材料になるのが、駐車場で見付かった弾痕だ。事件から既に5日が過ぎてから行われた現場検証で、奈良県警は3発の弾痕を確認した。

演説場所の北にある立体駐車場の外壁で、山上の狙撃位置から90m以上も離れている。弾痕の高さが報道によって微妙にずれているのは、県警が公式発表を避けている為である。

銃弾は傷を付けたのではなく、外壁にめり込んでいた模様だ。外壁の塗装材は不明で、内部のコンクリまで達していたかなど、威力に関する情報は未だに封印されている。
▽弾痕が発見された立体駐車場7月13日(デイリースポーツ)
デイリースポーツ7月13日弾痕が刻まれた外壁.png

「体内で溶けることのない金属」

警察当局が青山繁晴参院議員に対して非公式で語った所によると、銃弾は直径10ミリだという。ヘレーラ氏が試射した際には、ベアリング用途の鋼球を使ったようだ。ほぼ同じ材質と考えて良いだろう。

90m以上先の外壁にめり込む威力と、リコイルなき射撃シーンが素人目でも、どうにも噛み合わない。ミニマムな火薬量だったとは思えないのだ。それは煙幕のような白煙の広がりからも類推できる。

【射程100m超す無反動手製銃】

「殺傷能力を高めるポイントを確実に高めている」

産経新聞の取材に対し、銃器の研究家はそう指摘する。同記事によと、手製銃のグリップが「反動を吸収する曲線」なのだという。ちょっと意味が分からない。

アサルト・ライフルを撃った体験から、名器とされる銃でもリコイルが厳しいと知った。また、ヘレーラ氏の試射映像を見ても、グリップの形状などで軽減できないレベルであることは明白だ。

反動は単純な物理現象で、爆発の大きさに比例する。かつての巡洋艦には主砲口径に限界があった。大型主砲を放つと計算上、艦自体が耐えられず、反動で横転する最悪の事態も想定されたという。
▽取り押さえられる山上徹也7月8日(読売)
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これをヒトに置き換えると体重だ。格闘家並みの体格と筋力があれば、踏ん張った姿勢で反動を制御できる。しかし、山上徹也は小柄で、筋骨隆々には見えず、小太り体型でもない。

山上が凶弾を放ったことは間違いないが、無反動手製銃の謎は深まるばかりだ。90m以上の先の外壁を穿つ銃弾と、手ブレのない歩き撃ちは、科学的な整合生を欠く。

外壁の“金属片”が、山上が撃ったものだと断定する結果も未公表だ。だが奈良は、ヨハネスブルクのような弾痕だらけの凶悪犯罪都市ではなく、無関係の流れ弾である可能性はもっと低い。
▽金属片ではなく弾丸そのものに見える7月13日(毎日)
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鑑識結果の封印は、明らかに第三者の検証を阻んでいる。採取された弾丸の正確な質量が判れば、工学の専門家ならずとも、1発当たりの火薬量を算出できるだろう。

捜査本部とメディアは何を恐れているのか? 手製銃の構造から逸れるが、凶行に使用された火薬に関して不可解な報道が出たこともあった。誤報・捏造ではなく、ディスインフォメーションの疑いもある。

【情報封鎖と兵器“陳列ショー”の温度差】

「硝酸アンモニウムや硫黄、木炭などを混ぜて黒色火薬を作った」

7月14日のNHK報道だ。捜査関係者への取材で、山上徹也がそう供述していることが分かったという。スクープ性の欠片もない捜査情報に見えるが、専門家から疑問の声が上がった。

「そもそも原料が違う。硝酸アンモニウム、硫黄、木炭を混ぜても100%燃えない」

黒色火薬は3成分混合火薬で、硫黄・木炭に硝酸カリウムを加える。硝酸アンモニウムを使う「硝安爆薬」も存在するが、同化合物は210度で分解され、有毒な亜酸化窒素を発生させる。
▽特殊な原料を使用したとする7月14日付けNHK報道
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「リーク段階から誤った情報だったのを、確認せずにそのまま報じたのではないか」

専門家は二重三重のミスを指摘する。しかし重大事件の捜査で、奈良県警の科捜研が中学生理科レベルの間違いを犯すだろうか。NHK記者の聞き間違えであれば、ウェブ記事は訂正・削除されるはずである。

参照:NHK7月14日『銃撃事件の容疑者「硝酸アンモニウムなど混ぜ黒色火薬作った」』

このNHKと奈良県警の不可解なコラボに、異議を唱えた唯一のネットメディアがエンタメ系の「ENCOUNT」だった。余りにも特殊な黒色火薬の製法に大手既存メディアが触れることはなかった。

黒色火薬の成分について報道が規制されているという事実はない。一部の公立校では課外授業で、黒色火薬を作成。捏造紙は、嬉々として報じている。テロ予備軍向けの丁寧な紙面作りだ。

「黒色火薬は硝石(硝酸カリウム)に硫黄、木炭を調合して作る」

参照:朝日新聞’20年12月13日『高校生が古来の方法で火薬づくり授業』

手製銃に関しても「作り方」は論外として、構造を一部解説することにタブーはない。事件直後には手製銃のCGイラストが頻出したが、その後、各社が示し合わせたかのように消えた。
▽その後見かけなくなった手製銃の図解(読売)
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捜査本部も同様である。事件当日の家宅捜索で複数の手製銃などを押収。その“荷出し作業”は報道陣からフラッシュを浴びた。いま思い返せば異様な光景である。

厳格な管理が求められる証拠品であるにも拘らず、全ての捜査員が剥き出して持ち、見せつけるように報道カメラの前を横切った。通常は段ボールに納め、横付けした車両に素早く積み込む。
▽押収品を剥き出しで持つ捜査員7月8日(産経)
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一方、現場に落ちていた手製銃が改めて公開されることはなかった。凶器を見せたいのか、見せたくないのか…当日の陳列・持ち歩きは「山上の単独犯行」を強調する為のショーだったように思えてならない。

【知られざる密造工場と協力者】

テロリストは奈良山中で試し撃ちを繰り返したという。だが、銃の製造場所に関する詳細情報はない。一部伝えられる自宅の部屋で複数の手製銃、爆破装置をDIYしたという報道は、額面通り受け取れない。

グリップやベースは木製だが、その他のパーツは金属だ。全てをボルトやリベットで組み上げられるだろうか。黒色火薬を詰め込むチェンバーに相当する部分は高い機密性と強度が必要となる。

制作には金属溶接が欠かせない。兵器のコンサルティング企業「ARES」の調査によると、パイプガンの底部にはネジ式のエンドキャップが使われていた。市販品の流用である。
▽試射後に損傷したヘレーラ氏のパイプガン(動画より)
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ところが、米国ヘレーラ氏が試射した際、バレル後部のエンドキャップは激しく吹き飛んだ。爆発に耐えられなかったのだ。一方、山上の手製銃は2回の発射後も原型を留め、目立った損傷もない。

溶接で強度を上げた可能性が極めて高い。その場合、溶接中に飛び散る火花の処理が大きな問題になる。台所付き6畳のワンルームで出来る作業ではない。ホビーのプラモを作るのではないのだ。

「上から音がすることもなく、静かでした。ベッドを置いたら殆ど場所はなくなり、工具を使って作業する程のスペースもないはずです」

ワンルームマンションの真下の部屋に暮らす住民は、そう語った。問題は家宅捜査で押収した銃器類ではなく、製作した工房だ。借金苦の山上に専用の作業場をレンタルする余裕などない。
▽高圧パルス発生で起爆する仕組み(ARES)
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ここから協力者が居た可能性が浮上する。少し穿った見方をすれば、捜査本部とメディアは直後から「単独犯による事件」を強調し、協力者の存在を打ち消す方向で、偏った情報を流している。

当然だろう。このテロ事件で協力者が居た場合、その人物は首謀者に該当し、山上は単なる鉄砲玉に成り下がる。鉄砲玉が話す犯行動機は、事件の核心と何の関わりも持たない。

ARESによると、山上モデルはポピュラーで、ネット上に作成方法が氾濫しているという。またヘレーラ氏は、材料費の合計は210ドルだったと語る。下手すれば東京マルイの最新式電動ガンより安い。
▽ソウルの警官殺害で使用された手製銃’16年(地元紙)
ソウルの警官殺害で使用された手製銃'16年(地元紙).jpg

ネット情報で誰もが簡単に作れるのなら、事件直後から警察庁は模倣犯の出現を恐れて警戒を強め、メディアも規制論に走る。しかし、規制を求める声は一向に上がらない。

近所のホームセンターと通販で武器一式が揃うと指摘しているにも拘らずである。まるで「第二の山上」が現れないことを確信しているかのようだ。警察当局には、その根拠と自信があるのだろう。
▽犯行直後、木製のベースは“新品同様”だった(時事)
犯行現場で撮影された手製銃7月8日(時事).png

手製銃の密造には熟練を要する接合技術と整った工房が不可欠。90m以上先のコンクリ壁を穿つ“無反動手製銃”の作り方は、個人にとってハードルが高く、現実性が薄い。

捜査本部は単独犯行として幕引きを図る。今後も凶器関連情報は限定され、都合の良い内容しか公表されない。当局は「模倣犯を生まない為の措置」と言い訳するだろうが、それは当日の兵器陳列ショーと矛盾する。



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参考動画:
YouTube8月7日『I (Accidentally) Made The World’s Most Expensive Pipe Gun』

参照:
□図解でわかる危険物取扱者講座『硝酸塩類』

参考記事:
□ARES7月8日『Craft-produced firearm used to assassinate Shinzo Abe』
□産経新聞8月7日『銃の製造法 あふれる動画 科学実験か犯罪幇助か』
□デイリースポーツ7月14日『立体駐車場壁面に弾痕?3カ所に穴 山上容疑者発砲の弾丸捜索 安倍元首相銃撃』
□時事通信7月14日『手製銃、射程100メートル超か 外壁に穴、高い殺傷能力―安倍元首相銃撃・奈良県警』
□SAKISIRU7月10日『【現地ルポ】「私の寝ている上で、夜な夜な銃を…」山上徹也容疑者の階下の住民を直撃』
□ENCOUNT7月15日『安倍元首相の銃撃事件で、火薬の製造方法をめぐる報道が議論を呼んでいる』
□Flash7月30日『山上徹也容疑者の “パイプ銃” をアメリカ人が再現実験…材料費210ドルで銃身ごと吹き飛ぶ結果に』
□yutura7月30日『米YouTuber、山上徹也容疑者の自作銃を再現』

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