テロリストを招いた異常警備…“YP官憲”77年目の自壊
県警は春先、銃撃を強く警戒していた。しかし7月のその日、現場指揮官も後方警備ゼロの陣形崩壊を放置した。隠される不都合な事実。VIP警護を警察機構が担う暢気な時代は終わった。
「昔とはぜんぜん違う。直ぐに通報されますよ」
学校関係者は、そう話す。現在、公立小学校・中学校への立ち入りは厳しくなり、不審者が校内に侵入した場合、直ちに警告を発し、警察に通報するケースもあるという。
平成13年に起きた大阪教育大学附属池田小学校の惨劇が大きな影響を与えた。事件直後に規制が一律で見直された訳ではなく、都内公立校では段階的に強化された模様だ。
▽騒然とする附属池田小学校H13年(産経)
しかし、男は咎められることもなく校内に入り込み、凶器を手を教室まで到達した。平成の御代が終わる間際に発生したお茶の水女子大附属中学校ナイフ男事件である。
国賊・長谷川薫は、工事業者と偽って校内に侵入。悠仁親王殿下の机にアルミ棒を装着したナイフを据えた。幸い親王殿下におかれては教室の外で授業を受けられていた為、難を逃れられた。
大阪・池田小と同じ国立大の附属校だ。親王殿下が通われることから特別以上の警護・警戒態勢が求められるが、不審者に対しては一般の都立高よりも甘かった。
防犯カメラには、2本の刃物を剥き出しにして教室を探す国賊の姿が映っていた。殿下が外出される際は、皇宮警察の護衛官と都内であれば警察庁の警察官がお供する。SP2人体制である。
▽附属中が併設されるお茶の水女子大H31年4月(産経)
宮内庁によると警護官は殿下のご在校中、校内で待機しているという。近距離で常時警戒に当たることも、防犯設備のモニタールームで監視することともなく、ただ待機していたのではないか。
親王殿下の机に置かれた異様な凶器は男の逃走後、まもなく発見された。だが、専従のSPが居るにも拘らず、学校から警察への通報は6時間も後だったという。
我が国で最も厳重な警護が必要な学校が、複数の凶器を持った不審者の侵入を許した…本来なら絶対に起きてはならない事態だ。また極刑相当の犯人は裁判で執行猶予を貰い、野放しになっている。
【江戸時代の同心百人なら見逃さなかった】
「不審な中国人男性が約1時間に渡って皇居内に侵入、自由に徘徊するという事案が発生しました」
元皇宮警察官の衝撃的な告発から、その記事は始まる。『週刊新潮』は6月中旬、スパイの可能性がある支那人が皇居に侵入する大事件が起きていたというスクープを放った。
侵入事件が発生したのは2年前の令和2年10月19日。支那人男は、北桔橋門に近い宮内庁書陵部を訪れた。同部は皇統譜などを所蔵・保管する施設で、外国人も閲覧可能だが、籠る研究者は少ない。
▽宮内庁書陵部(千代田遺産HPより)
問題は書陵部を出た後だった。支那人は東御苑の脇から百人番所を越え、立ち入りを規制するフェンスも突破。誰に咎められることもなく、聖域深部に侵入する。
「宮内庁庁舎へと入り込んだ彼は、地下の食堂で昼食までとっています」
告発者が語る詳細な侵入ルートの説明に対しては、呆れるのではなく、ただ青褪める。腹を満たした支那人はその後、宮殿・宮中三殿を巡り、御所に近い吹上仲門で漸く取り押さえられた。
▽支那人男の皇居不法侵入ルート(新潮)
ところが、現行犯逮捕されず、任意の聴取で支那人は無罪放免となったという。1時間に渡る不法侵入は見逃され、事件は闇に埋もれた。元皇宮警察官は、支那人の人物像をこう明かす。
「その後、警察的な観点から相当危うい身元の人物だと判明した」
中共諜報機関のエージェントか、有力な協力者か。庁舎など施設にIDチェック機能がなく、防犯カメラに顔認証システムがないこともCCP側に漏れてしまった。国内最高レベルの聖域が、この有り様だ。
「国家の安全保障をも揺るがしかねない“事件”」「立ち入り禁止エリアに易々と侵入されてしまう警備態勢では、皇室の守護など担えまい」(『週刊新潮』6月30日号)
全面的に同意する。更に新潮は、実質ゼロ解答の皇宮警察、箝口令を敷いて侵入事件を隠蔽した当時の警察庁警備局長・大石吉彦現警視総監を名指しで批判する。
同誌は連載で事件を追及し、警察当局の隠蔽体質を叩く。それも正しい姿勢だが、戦後最大級の暗殺事件との落差が激し過ぎる。世紀の大失態であるテロ誘発警備を多角的に追った記事は未だない。
箝口令が敷かれているのは、一体、どちらなのか。
【崩れたフォーメーションに誰も気付かない】
野球に例えるなら、三塁手と遊撃手がポジションを離れ、一二塁間に回っていたようなものだ。これに選手自身やベンチが気付かないことは有り得ない。
サッカーで言えば、相手チームに攻め込まれる中、サイドバックを含むディフェンダー4人がハーフライン付近に居るといった按配。監督やゴールキーパーが、それを見逃すことはない。
安倍総理の不幸な事件では第一に、警備の基本的なフォーメーションが崩れていた。大失態と呼ぶのさえ躊躇するレベルの凡ミス。初歩的なポジショニングの崩壊に現場の誰もが気付かなかったのだ。
「前方の聴衆が増えてきたことなどから、位置を変更した」
8月6日付け産経新聞によると、SP4人のうち唯独り配置された後方警戒担当が、立ち位置を変えて前方を注視した。この移動は当日の連続写真でも判明していたことだ。
▽テロ事件発生時の現場見取り図(産経)
そのSPは、警備の統括者に伝えず、独自の判断で動いたという。SPと現場指揮官は双方向のイヤホンマイクで密に連絡を取り合う。フォーメーションを故意に崩す異常行動としか言いようがない。
更に大きな問題は、全体を俯瞰する統括者が、ポジションの異変に気付かず、放置していたことだ。結果、後方警備がゼロとなり、テロリストを招き寄せた。この重大ミスは、およそ理解不能だ。
「警察から『後方の警備が難しい』と指摘され、断念していた」
7月25日の関西テレビ報道によると、奈良県警は後方警備を重視していたという。立民の泉健太が4月に同じ場所での演説を申し入れた際、県警が許可せず、他の場所に移されたことが判明したのである。
この件に関して青山繁晴議員が警察側に事実関係を質した所、関テレ報道は不正確との回答を得た。だが、立民の党奈良県連が嘘を吐くとも思えない。県警側は詳細な経緯を会見で明らかにすべきだ。
また、参院選序盤の6月25日、茂木敏充が奈良を訪問。安倍総理と全く同じ場所で応援演説を行なっている。県警は4月時と異なり、後方警備の安全性が充分に確保できたと判断したのだろう。
▽同位置で演説する茂木6月25日(小林茂樹衆院議員FBより)
演説中の茂木の背後には、SPの姿がある。定石通りのフォーメーションで、不自然な点はない。後方警戒が必要な場所で、後方担当が突如ゼロになるというテロ事件発生時が異常だったのだ。
【防刃より防弾を警戒した理由は何か】
「泉代表は、少し離れた場所で演説。警察から車の上で演説することや、車を防弾パネルで覆うことなどを要望された」(KTV7月25日)
立憲の泉健太は4月2日、近鉄大和西大寺駅前で応援演説を行った。堂参院候補内定者の事前運動だ。検めると確かに場所は違う。南都銀行とサンワシティビルの間、4車線の通りの中央分離帯である。
▽同駅前で演説する泉健太ら4月2日(党HPより)
奈良県警の申し入れを受け、選挙カーの上で演説していることが分かる。泉の真後ろにSPが密着し、更に候補予定者の背後にも1人の警護官が立ち、周囲を警戒。通常のポジショニングと言えよう。
無いのは防弾パネルだ。青山議員に対し、警察幹部が「報道は不正確」と話したのは、この部分ではないか。ガラス状の防弾パネルは重く、取り扱いが難しい。
2008年にオバマが大統領選で勝利演説を行った際、演壇のフロントには大きな防弾ガラスがあった。演説が屋外で、不特定多数の支持者らが集まった為の措置だった。
▽勝利演説するオバマとハンター父’08年11月(地元紙)
防弾パネルで覆われた選挙カーなど我が国で見掛けることはない。車両のルーフに防弾ガラスを設置するには重機が必要だ。その前に、党県連が自前の防弾ガラスを所有しているケースがあるのか?
関テレ報道の防弾パネルに関する件は、かなり現実離れしているが、事実なら別の視点で興味深い。奈良県警は4月の時点で、狙撃を警戒していたことになる。
政治家襲撃で警備当局が第一に警戒するのは、刃物や鈍器を持った乱入者だ。警備の主眼は暴漢の接近阻止に置かれる。その中で奈良県警側は、いきなり「防弾」だと言う。
当然、警備当局は銃や改造ボウガンによる襲撃も想定している。しかし過去の選挙戦で“飛び道具”により犠牲者が出た事例は、平成17年の長崎市長射殺事件が唯一で、事件は移動中に起きた。
▽選挙事務所に戻る際、背後から撃たれたH13年4月(時事)
街頭遊説を狙った銃撃は極めてレアケースだ。それにも拘らず、奈良県警は春先から狙撃を強く警戒し、安倍総理の時はテロリストの接近まで許した。
奇妙なかたちで、点と線が繋がっているようにも見える。
【“YP官憲”の限界を露呈したエポック】
暗殺テロ誘発警備を受け、警察庁は「検証チーム」を組織。8月中に検証結果をまとめる方針だという。お役所仕事の「月内」は月末と同義だ。また「まとめる」とは言ったが、発表するとは言ってない。
事件発生から1ヵ月の節目でも中間報告はなく、当日の警備に関する直接の責任者である奈良県警・警備部長は未だに公に姿を現さず、雲隠れを続けている。
警察庁による検証は上部組織の介入に見えるが、所詮は身内同士。証拠等の開示は取捨選択され、不都合な情報が表沙汰になるような下手は打たない。テロは許しても、組織の防衛は万全だ。
ケネディ暗殺を検証する有名なウォーレン委員会が設置されたのは、事件の1週間後だった。シカゴ市警もFBIも信用できない。委員長には邦最高裁長官のウォーレンが抜擢された。
▽JFK暗殺事件検証で設置されたウォーレン委員会(file)
このウォーレン委員会も結局、FBIのオズワルド単独犯行説を踏襲し、今に続く様々な疑惑を生む要因になった。それでも司法トップが権限を得て総合的に検証するという姿勢は正しかった。
今回の事件で、警察庁が公正な検証結果を開示しないことは誰の目にも明らかだ。ケネディ事件とは違ってメディアも警備の致命的ミスを激しく追及しない。ぬるま湯の浸かり心地は、さぞ良かろう。
皇宮警察も含め、警察がVIP警護から撤退する時期が来た。OBによると、警察庁SPのエリートは米国に派遣され、研修を受けているという。それが何の役にも立たなかったのだ。
▽岸田首相を取り巻くSP集団8月6日(産経)
海外で研鑽を積んだSPが、アイドル握手会の「剥がし役」よりも劣るとは、笑い話にもならない。少なくとも「剥がし役」は機敏に対応して警護対象を守り、勝手に所定の位置から動くことはない。
ご皇族は勿論、柱石レベルの政治家や外国要人を“YP官憲”が警護している現状が異常と言える。YP官憲とは民族派用語で「ヤルタ・ポツダム体制の犬」といった意味を持つ警察官への侮蔑表現である。
代わりを担うのは、陸自の精鋭だ。シークレットサービスを国家安全保障の観点から大幅再編する必要がある。所属も警察官僚が跋扈する内閣官房ではなく、将来的には国軍隷下が望ましい。
何しろ警察当局とメディアが言うには、誰でも2万円程度の材料費で100m先のコンクリ壁を穿つ強力な銃が作れる時代である。それが事実なら、現行の武装・防備では到底対処できない。
尊い命が失われただけではなかった。奈良北辺の銃声は、警察能力の限界を炙り出したのだ。
〆
最後まで読んで頂き有り難うございます
クリック1つが敵に浴びせる銃弾1発となります
↓

【side story】
“空白の9秒”が確認できる動画は現在、捜索中。エクアドルの放送局が直後にオンエアした動画がそれに該当するか否かも不明で、メジャーな動画サイトからは消えている…
当ウェブリブログのサービス終了(来年1月)に伴い、引っ越しを予定しています。この夏に過去記事すべての移動を一気に完了させるつもりでしたが、若干面倒な作業なので先送りし、今に至ってます。
参考記事:
□産経新聞8月5日『安倍氏後方警戒の警護員不在、計画を現場判断で変更 警察庁検証』
□産経新聞8月5日『安倍氏警備計画、安易な前例踏襲や危機感欠如が浮き彫りに 警察庁検証』
□産経新聞8月7日『盾なき2・7秒 警備、重なった致命的な隙』
□産経新聞8月9日『「あそこから行けた」 背後の手薄な警護確認 山上容疑者供述』
□KTV7月21日『「後方の警備が難しい」と他党に指摘も なぜあの場所で演説が行われたのか 安倍元首相銃撃』(注:削除済み)
□日経新聞’19年4月28日『侵入男「水道工事」と説明 悠仁さま机上刃物事件で』
□スポーツ報知’19年4月28日『『お茶の水女子大付属中、悠仁さまの机に刃物2本…不審者が防犯カメラに』
□デイリー新潮6月22日『皇宮警察が「中国人皇居内侵入」事件を隠蔽していた “危険人物”が1時間にわたり徘徊』
□デイリー新潮6月29日『皇宮警察が隠蔽した「中国人皇居侵入事件」 1時間にわたって皇居内を自由に徘徊』
□デイリー新潮7月13日『皇宮警察で「泥沼ダブル不倫」「不倫の末の練炭心中」が 皇族方への悪口も横行』
□産経新聞6月26日『花田紀凱の週刊誌ウォッチング 中国人の皇居侵入、警察はきちんと説明せよ』
「昔とはぜんぜん違う。直ぐに通報されますよ」
学校関係者は、そう話す。現在、公立小学校・中学校への立ち入りは厳しくなり、不審者が校内に侵入した場合、直ちに警告を発し、警察に通報するケースもあるという。
平成13年に起きた大阪教育大学附属池田小学校の惨劇が大きな影響を与えた。事件直後に規制が一律で見直された訳ではなく、都内公立校では段階的に強化された模様だ。
▽騒然とする附属池田小学校H13年(産経)
しかし、男は咎められることもなく校内に入り込み、凶器を手を教室まで到達した。平成の御代が終わる間際に発生したお茶の水女子大附属中学校ナイフ男事件である。
国賊・長谷川薫は、工事業者と偽って校内に侵入。悠仁親王殿下の机にアルミ棒を装着したナイフを据えた。幸い親王殿下におかれては教室の外で授業を受けられていた為、難を逃れられた。
大阪・池田小と同じ国立大の附属校だ。親王殿下が通われることから特別以上の警護・警戒態勢が求められるが、不審者に対しては一般の都立高よりも甘かった。
防犯カメラには、2本の刃物を剥き出しにして教室を探す国賊の姿が映っていた。殿下が外出される際は、皇宮警察の護衛官と都内であれば警察庁の警察官がお供する。SP2人体制である。
▽附属中が併設されるお茶の水女子大H31年4月(産経)
宮内庁によると警護官は殿下のご在校中、校内で待機しているという。近距離で常時警戒に当たることも、防犯設備のモニタールームで監視することともなく、ただ待機していたのではないか。
親王殿下の机に置かれた異様な凶器は男の逃走後、まもなく発見された。だが、専従のSPが居るにも拘らず、学校から警察への通報は6時間も後だったという。
我が国で最も厳重な警護が必要な学校が、複数の凶器を持った不審者の侵入を許した…本来なら絶対に起きてはならない事態だ。また極刑相当の犯人は裁判で執行猶予を貰い、野放しになっている。
【江戸時代の同心百人なら見逃さなかった】
「不審な中国人男性が約1時間に渡って皇居内に侵入、自由に徘徊するという事案が発生しました」
元皇宮警察官の衝撃的な告発から、その記事は始まる。『週刊新潮』は6月中旬、スパイの可能性がある支那人が皇居に侵入する大事件が起きていたというスクープを放った。
侵入事件が発生したのは2年前の令和2年10月19日。支那人男は、北桔橋門に近い宮内庁書陵部を訪れた。同部は皇統譜などを所蔵・保管する施設で、外国人も閲覧可能だが、籠る研究者は少ない。
▽宮内庁書陵部(千代田遺産HPより)
問題は書陵部を出た後だった。支那人は東御苑の脇から百人番所を越え、立ち入りを規制するフェンスも突破。誰に咎められることもなく、聖域深部に侵入する。
「宮内庁庁舎へと入り込んだ彼は、地下の食堂で昼食までとっています」
告発者が語る詳細な侵入ルートの説明に対しては、呆れるのではなく、ただ青褪める。腹を満たした支那人はその後、宮殿・宮中三殿を巡り、御所に近い吹上仲門で漸く取り押さえられた。
▽支那人男の皇居不法侵入ルート(新潮)
ところが、現行犯逮捕されず、任意の聴取で支那人は無罪放免となったという。1時間に渡る不法侵入は見逃され、事件は闇に埋もれた。元皇宮警察官は、支那人の人物像をこう明かす。
「その後、警察的な観点から相当危うい身元の人物だと判明した」
中共諜報機関のエージェントか、有力な協力者か。庁舎など施設にIDチェック機能がなく、防犯カメラに顔認証システムがないこともCCP側に漏れてしまった。国内最高レベルの聖域が、この有り様だ。
「国家の安全保障をも揺るがしかねない“事件”」「立ち入り禁止エリアに易々と侵入されてしまう警備態勢では、皇室の守護など担えまい」(『週刊新潮』6月30日号)
全面的に同意する。更に新潮は、実質ゼロ解答の皇宮警察、箝口令を敷いて侵入事件を隠蔽した当時の警察庁警備局長・大石吉彦現警視総監を名指しで批判する。
同誌は連載で事件を追及し、警察当局の隠蔽体質を叩く。それも正しい姿勢だが、戦後最大級の暗殺事件との落差が激し過ぎる。世紀の大失態であるテロ誘発警備を多角的に追った記事は未だない。
箝口令が敷かれているのは、一体、どちらなのか。
【崩れたフォーメーションに誰も気付かない】
野球に例えるなら、三塁手と遊撃手がポジションを離れ、一二塁間に回っていたようなものだ。これに選手自身やベンチが気付かないことは有り得ない。
サッカーで言えば、相手チームに攻め込まれる中、サイドバックを含むディフェンダー4人がハーフライン付近に居るといった按配。監督やゴールキーパーが、それを見逃すことはない。
安倍総理の不幸な事件では第一に、警備の基本的なフォーメーションが崩れていた。大失態と呼ぶのさえ躊躇するレベルの凡ミス。初歩的なポジショニングの崩壊に現場の誰もが気付かなかったのだ。
「前方の聴衆が増えてきたことなどから、位置を変更した」
8月6日付け産経新聞によると、SP4人のうち唯独り配置された後方警戒担当が、立ち位置を変えて前方を注視した。この移動は当日の連続写真でも判明していたことだ。
▽テロ事件発生時の現場見取り図(産経)
そのSPは、警備の統括者に伝えず、独自の判断で動いたという。SPと現場指揮官は双方向のイヤホンマイクで密に連絡を取り合う。フォーメーションを故意に崩す異常行動としか言いようがない。
更に大きな問題は、全体を俯瞰する統括者が、ポジションの異変に気付かず、放置していたことだ。結果、後方警備がゼロとなり、テロリストを招き寄せた。この重大ミスは、およそ理解不能だ。
「警察から『後方の警備が難しい』と指摘され、断念していた」
7月25日の関西テレビ報道によると、奈良県警は後方警備を重視していたという。立民の泉健太が4月に同じ場所での演説を申し入れた際、県警が許可せず、他の場所に移されたことが判明したのである。
この件に関して青山繁晴議員が警察側に事実関係を質した所、関テレ報道は不正確との回答を得た。だが、立民の党奈良県連が嘘を吐くとも思えない。県警側は詳細な経緯を会見で明らかにすべきだ。
また、参院選序盤の6月25日、茂木敏充が奈良を訪問。安倍総理と全く同じ場所で応援演説を行なっている。県警は4月時と異なり、後方警備の安全性が充分に確保できたと判断したのだろう。
▽同位置で演説する茂木6月25日(小林茂樹衆院議員FBより)
演説中の茂木の背後には、SPの姿がある。定石通りのフォーメーションで、不自然な点はない。後方警戒が必要な場所で、後方担当が突如ゼロになるというテロ事件発生時が異常だったのだ。
【防刃より防弾を警戒した理由は何か】
「泉代表は、少し離れた場所で演説。警察から車の上で演説することや、車を防弾パネルで覆うことなどを要望された」(KTV7月25日)
立憲の泉健太は4月2日、近鉄大和西大寺駅前で応援演説を行った。堂参院候補内定者の事前運動だ。検めると確かに場所は違う。南都銀行とサンワシティビルの間、4車線の通りの中央分離帯である。
▽同駅前で演説する泉健太ら4月2日(党HPより)
奈良県警の申し入れを受け、選挙カーの上で演説していることが分かる。泉の真後ろにSPが密着し、更に候補予定者の背後にも1人の警護官が立ち、周囲を警戒。通常のポジショニングと言えよう。
無いのは防弾パネルだ。青山議員に対し、警察幹部が「報道は不正確」と話したのは、この部分ではないか。ガラス状の防弾パネルは重く、取り扱いが難しい。
2008年にオバマが大統領選で勝利演説を行った際、演壇のフロントには大きな防弾ガラスがあった。演説が屋外で、不特定多数の支持者らが集まった為の措置だった。
▽勝利演説するオバマとハンター父’08年11月(地元紙)
防弾パネルで覆われた選挙カーなど我が国で見掛けることはない。車両のルーフに防弾ガラスを設置するには重機が必要だ。その前に、党県連が自前の防弾ガラスを所有しているケースがあるのか?
関テレ報道の防弾パネルに関する件は、かなり現実離れしているが、事実なら別の視点で興味深い。奈良県警は4月の時点で、狙撃を警戒していたことになる。
政治家襲撃で警備当局が第一に警戒するのは、刃物や鈍器を持った乱入者だ。警備の主眼は暴漢の接近阻止に置かれる。その中で奈良県警側は、いきなり「防弾」だと言う。
当然、警備当局は銃や改造ボウガンによる襲撃も想定している。しかし過去の選挙戦で“飛び道具”により犠牲者が出た事例は、平成17年の長崎市長射殺事件が唯一で、事件は移動中に起きた。
▽選挙事務所に戻る際、背後から撃たれたH13年4月(時事)
街頭遊説を狙った銃撃は極めてレアケースだ。それにも拘らず、奈良県警は春先から狙撃を強く警戒し、安倍総理の時はテロリストの接近まで許した。
奇妙なかたちで、点と線が繋がっているようにも見える。
【“YP官憲”の限界を露呈したエポック】
暗殺テロ誘発警備を受け、警察庁は「検証チーム」を組織。8月中に検証結果をまとめる方針だという。お役所仕事の「月内」は月末と同義だ。また「まとめる」とは言ったが、発表するとは言ってない。
事件発生から1ヵ月の節目でも中間報告はなく、当日の警備に関する直接の責任者である奈良県警・警備部長は未だに公に姿を現さず、雲隠れを続けている。
警察庁による検証は上部組織の介入に見えるが、所詮は身内同士。証拠等の開示は取捨選択され、不都合な情報が表沙汰になるような下手は打たない。テロは許しても、組織の防衛は万全だ。
ケネディ暗殺を検証する有名なウォーレン委員会が設置されたのは、事件の1週間後だった。シカゴ市警もFBIも信用できない。委員長には邦最高裁長官のウォーレンが抜擢された。
▽JFK暗殺事件検証で設置されたウォーレン委員会(file)
このウォーレン委員会も結局、FBIのオズワルド単独犯行説を踏襲し、今に続く様々な疑惑を生む要因になった。それでも司法トップが権限を得て総合的に検証するという姿勢は正しかった。
今回の事件で、警察庁が公正な検証結果を開示しないことは誰の目にも明らかだ。ケネディ事件とは違ってメディアも警備の致命的ミスを激しく追及しない。ぬるま湯の浸かり心地は、さぞ良かろう。
皇宮警察も含め、警察がVIP警護から撤退する時期が来た。OBによると、警察庁SPのエリートは米国に派遣され、研修を受けているという。それが何の役にも立たなかったのだ。
▽岸田首相を取り巻くSP集団8月6日(産経)
海外で研鑽を積んだSPが、アイドル握手会の「剥がし役」よりも劣るとは、笑い話にもならない。少なくとも「剥がし役」は機敏に対応して警護対象を守り、勝手に所定の位置から動くことはない。
ご皇族は勿論、柱石レベルの政治家や外国要人を“YP官憲”が警護している現状が異常と言える。YP官憲とは民族派用語で「ヤルタ・ポツダム体制の犬」といった意味を持つ警察官への侮蔑表現である。
代わりを担うのは、陸自の精鋭だ。シークレットサービスを国家安全保障の観点から大幅再編する必要がある。所属も警察官僚が跋扈する内閣官房ではなく、将来的には国軍隷下が望ましい。
何しろ警察当局とメディアが言うには、誰でも2万円程度の材料費で100m先のコンクリ壁を穿つ強力な銃が作れる時代である。それが事実なら、現行の武装・防備では到底対処できない。
尊い命が失われただけではなかった。奈良北辺の銃声は、警察能力の限界を炙り出したのだ。
〆
最後まで読んで頂き有り難うございます
クリック1つが敵に浴びせる銃弾1発となります
↓

【side story】
“空白の9秒”が確認できる動画は現在、捜索中。エクアドルの放送局が直後にオンエアした動画がそれに該当するか否かも不明で、メジャーな動画サイトからは消えている…
当ウェブリブログのサービス終了(来年1月)に伴い、引っ越しを予定しています。この夏に過去記事すべての移動を一気に完了させるつもりでしたが、若干面倒な作業なので先送りし、今に至ってます。
参考記事:
□産経新聞8月5日『安倍氏後方警戒の警護員不在、計画を現場判断で変更 警察庁検証』
□産経新聞8月5日『安倍氏警備計画、安易な前例踏襲や危機感欠如が浮き彫りに 警察庁検証』
□産経新聞8月7日『盾なき2・7秒 警備、重なった致命的な隙』
□産経新聞8月9日『「あそこから行けた」 背後の手薄な警護確認 山上容疑者供述』
□KTV7月21日『「後方の警備が難しい」と他党に指摘も なぜあの場所で演説が行われたのか 安倍元首相銃撃』(注:削除済み)
□日経新聞’19年4月28日『侵入男「水道工事」と説明 悠仁さま机上刃物事件で』
□スポーツ報知’19年4月28日『『お茶の水女子大付属中、悠仁さまの机に刃物2本…不審者が防犯カメラに』
□デイリー新潮6月22日『皇宮警察が「中国人皇居内侵入」事件を隠蔽していた “危険人物”が1時間にわたり徘徊』
□デイリー新潮6月29日『皇宮警察が隠蔽した「中国人皇居侵入事件」 1時間にわたって皇居内を自由に徘徊』
□デイリー新潮7月13日『皇宮警察で「泥沼ダブル不倫」「不倫の末の練炭心中」が 皇族方への悪口も横行』
□産経新聞6月26日『花田紀凱の週刊誌ウォッチング 中国人の皇居侵入、警察はきちんと説明せよ』
この記事へのコメント